山口県周南市の連続殺人・放火事件で、山に潜んでいた保見光成(ほみこうせい)容疑者(63)が7月26日に逮捕された。山深い“限界集落”の住民14人中、5人を次々と撲殺し、家々に火を放った動機について、いまだ口をつぐんでいる保見容疑者。だが、容疑者の自宅からは近所の住民らを名指しで恨み言を書いた「貼り紙」のようなものが複数、押収されているという。なぜ、恨みを抱くようになったのか。男はたびたび集落の中でトラブルを起こし、徐々に孤立していった…。

 とりわけトラブルとなったのが、「1001」ナンバーの2台の車だ。

 1台はトヨタのハイラックスサーフという大型車で、保見容疑者が川崎市のアパートに住んでいたころに購入したという。19年前に故郷に戻る際、川崎から乗って帰ってきた。「記念にずっと置いておくと話していた」と、いちばん上の姉は言う。川崎市で保見容疑者と同じ駐車場を借りていた男性はこう証言する。「ハイラックスサーフの初期モデル。タイヤを変え、車高も独自に改造していた。車をほめると喜んだ」。

 しかし、保見容疑者の車が駐車場に入ってくるときに、別の住民の車がたまたま出ようとすると、大きな声で「何だ、どけ!」と怒鳴ったという。

 そんな保見容疑者の車は、集落ではとりわけ目立った。
「車に目を向けるだけで睨み返され、因縁をつけられる。小さな集落の狭い道に大きな車。時折、別の車が立ち往生すると『下がれ、どけ』と大きな声で怒鳴り、『車にキズをつけるなよ』と言っていました」(集落の住民)

 愛犬を巡っても口論が絶えなかったという。地元住人がこう振り返る。「被害者の一人が保見容疑者に『犬の糞を始末しろ』と文句を言うと『殺したろうか』と、すごまれたと聞きました」。

 10年ほど前には、今回、犠牲になった住民の一人と酒を飲んでいるとき、口論となり、相手からナイフで刺されてケガをしたこともあった。いちばん上の姉は言う。「弟からは、近所の人ともめて刺されたと聞いた。どうしてそうなったかまでは知らんです。口下手であまりしゃべらんので」。

 そうして保見容疑者はますます孤立を深めていく。集落の外の人間にはこんな愚痴もこぼしていた。「2、3カ月前に顔を出してくれたとき、『近所から嫌がらせされる』と言っていた。詳しく尋ねると『家のカレーに農薬を入れられた。自分の家に煙が流れるように野焼きをする』と怒っていた。深刻そうでした」。

 2011年1月、保見容疑者は地元の周南警察署を訪れ、「集落で孤立している」と相談していた。

 2番目の姉は振り返る。「両親が死んでから、弟は独りぼっち。近所の人が普通に話しとっても、弟には悪口に思えたようです」。

 近所の住民はこう言う。「村八分というよりも自分から遠ざかっていった」。

週刊朝日  2013年8月9日号