2008年から活動を休止していた国民的バンド、サザンオールスターズ(SAS)が、6月25日、5年ぶりに復活することを発表した。これまで数々の作品を生み出し、ヒットさせてきたSAS。しかしリーダーの桑田佳祐さんからは、時には弱気が見え隠れすることもあったという。音楽評論家の岡村詩野さんは、食道がん手術後に復帰した彼の様子を次のように振り返る。

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 裏側ではすべてが順風満帆ではなかっただろうし、2008年以前に活動を停止させたこともある。35年も続けていればどんな人間にも浮き沈みがあるわけだが、わけてもほとんどの曲を作詞作曲する桑田は、壁にぶつかってもその都度ポジティヴなエネルギーに転化させ、それを推進力としながら時代を切り開いてきた。

 その姿は、80年代にバブル景気を迎え、やがて崩壊するも前向きに立て直しをはかり、したたかに生き抜いてきた日本の社会のリーダー像にも重なる。そう、デビューから35年間、SASは、桑田佳祐は、日本の音楽シーンに欠かせない存在であるばかりか、社会を支える「清き日本人の代弁者」でもあってきたのだ。

 活動休止発表後の2010年に、桑田佳祐は初期の食道がんを告白した。ソロ活動も含めた全ての音楽活動を停止させて手術に踏み切り、そして成功。その年の暮れの紅白歌合戦に出演して復帰と再開を伝えたことは記憶に新しい。

 
 筆者はその1カ月後、桑田の新作ソロ・アルバム「MUSICMAN」に際した取材を行ったが、まだ少々やつれた面持ちながら、50代半ばの社会人なら誰でも感じる不安、寂しさ、憤り、命の尊さ、いとおしさなどを作品に込めたことを包み隠さずに語ってくれたのを、今でも覚えている。

 一方で、今でもCDを買ったり、映画館に足を運んだりするとリラックスした表情で話す様子は、青山学院大学の音楽サークルでバンドを結成した頃のような無邪気で熱い音楽ファンそのものだった。

 敬愛するエリック・クラプトンやポール・マッカートニー、ローリング・ストーンズといった、今も元気に活動するベテランの名前をあげて「励まされる」とうれしそうに話し、矢沢永吉や山下達郎ら日本の“同志”についても「彼らも元気だからなあ(笑)」と話し、確実に勇気づけられていることを独特のおちゃめな表現で伝えてくれた。

 その横顔には、78年のデビューから“音楽シーンという社会”のトップランナーとして走り続け、がんという大病と闘うことで初めて自らの死と向き合った男の優しさと穏やかさ、それと、ちょっとした弱音も見え隠れしていた。

週刊朝日  2013年7月12日号