新玉葱がおいしい季節。甘みをたっぷり含んだ旬の玉葱は、生活習慣病予防にも期待できるとあって積極的に体に取り入れたいところだが、あの切るときの涙が……という人も多いのではないだろうか。料理研究家の柳谷晃子氏が、対処法を教えてくれた。

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 今の季節は店頭に新玉葱が並びます。新玉葱は白玉葱という品種で、甘みが強いため甘玉葱とも呼ばれます。一年中手に入る玉葱は辛みが強い黄玉葱。品種が違うのです。原産はイランのあたり。そこから東西に広がり、スペインやフランス、地中海地方には白玉葱が、北西インド経由で北ヨーロッパには黄玉葱が定着しました。

 クフ王のピラミッド建設時に、労働者への日当に玉葱が使われていた記録があります。ずいぶん古くから食べられていたんですね。玉葱は東アジアにも伝わりましたが、気候条件が合わなかったため、長葱が定着することになりました。

 日本で玉葱が一般化したのは明治以降。北海道開拓使が作物に玉葱を導入し、大量に作れるようになったことが、北海道の発展につながっていきました。当時は、収穫できるかどうか予測がつかず、生育が良くないと思ったら豊作になったり、その逆があったりして、キツネにダマされるという意味で「キツネグサ」とも呼ばれていたそうです。

 さて、玉葱の食べる部分を、根だと思っていませんか? あれは葉なんです。次の年に芽を出すために栄養を溜め込む貯蔵葉という特殊な部分です。だから、とても栄養があるわけです。ポリフェノールを多く含み、活性酸素を抑える働きがあるので、老化防止やがんの予防に役立つと考えられています。

 また独特の刺激臭や辛み、涙が出る原因となる硫化アリルは、血液をサラサラにすることで、高血圧や動脈硬化の予防を助ける役割があります。豚肉に多く含まれるビタミンB1と一緒に摂ると新陳代謝が活発になり、疲労、不眠症、イライラ、精力減退などの解消にも効果的です。

 この硫化アリルが揮発して、鼻から入って涙が出るんです。どうしても苦手な人はゴーグルより鼻栓のほうがおすすめです。南米の民間伝承では、玉葱を切るときに1枚切って口にくわえるか、頭にのせると涙が出ないというそうです。でも一番いいのは、よく切れる包丁で、繊維に沿って切ることですよ。

 最近は玉葱の皮のお茶も売られていますね。私は皮の粉末を、実験的に糠床に入れてみました。驚いたのは、キッチンに3カ月常温で放ったらかしにしていますが、まったくカビが生えてこないことです。玉葱にはほかにも隠れた効能がありそうです。

週刊朝日 2013年5月31日号