『パラサイト・イヴ』などの代表作がある作家・瀬名秀明さんは、星新一の創作と未来を繋ぐプロジェクトに参加しているという。

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 星新一のように面白いショートショートを人工知能に作らせようという研究「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」が昨年スタートした。私も顧問としてプロジェクトに参加したが、大きな反響があって嬉しく思う。星新一の創作の秘密を解明し未来に繋ぐ試みは、誰もがわくわくする科学と文学のロマンなのだ。

 星新一は最近復刊されたエッセイ集『きまぐれ星のメモ』『きまぐれ博物誌』でも創作の極意を語っていて、いまなお示唆に富んで味わい深い。そして復刊シリーズのハイライトといえそうなのが『できそこない博物館』(新潮文庫)だ。作品にできなかったアイデアメモをきまぐれに取り出してコメントをつけたものだが、まずメモの多くがきちんとした物語のプロットになっていることに驚かされる。

 そこまで書けてなぜ作品にならなかったのか。殺人やセックス描写が必要でスタイルに合わなかった、類似作があった、時代とずれた、内容が力量を越えるなど明快な理由もある。だが人工知能研究との絡みで読み直すと、それ以上に星自身の中で何かが引っかかって進まなかった場合が多いのは興味深い。

 もう少しひねりがほしいと結末をこねくり回しているうちに収拾がつかなくなる。出だしのシチュエーションは頭に浮かんだものの中盤の繋げ方が見えてこない。ひとつのイメージに固執してしまう。逆にいえばこれらの部分で閃きがあり、一瞬でも道筋が見えたなら、星は作品にできたのだ。まさにいま人工知能が実現できない部分である。

 たぶん意外性のあるシチュエーションの創作は人工知能でも可能だ。個性ある文章も合成できるようになるだろう。だが「これでいける」と作家が確信する“何か”はいまなおわからない。“何か”なしに人工知能はどこまで“創作”可能かという本質の問題だ。本書では星が戦争や国家へのハードな関心を寄せている様子も垣間見え、思考の奥深さを感じる。きっと本書に未来への答がある。私自身、今後の成果が楽しみだ。

週刊朝日 2013年3月22日号