「予防歯科」は生涯健康な歯でかみ続けるために欠かせない。にもかかわらず、日本ではなぜ一般的でないという。日本の予防歯科医療の先駆けである日吉歯科診療所院長の谷崇(くまがいたかし)歯科医師に予防歯科の実情を聞いた。

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「予防」というと歯みがきや食習慣の改善をイメージすると思います。しかし診療所における「予防」とは、健康な歯を病気にしない、治療を終えた歯を再発させない、そのための「発症前の治療」だと考えてください。

 具体的に何をするかというと、(1)むし歯や歯周病にかかる危険性を予測し(リスクアセスメント)、(2)リスクに応じて、定期的にバイオフィルム(歯をおおう細菌の塊)の除去をすること、です。(2)をしている人は増えてきましたが、それだけでは足りません。同じような食事や歯みがきをしていても、発症する人もいればしない人もいる。また生涯におけるリスクは変化するので、すべての人に共通の予防方法などありえないのです。

 むし歯のリスクを知るためには唾液検査が不可欠ですし、歯周病のリスクを知ることも重要です。そこに生活習慣や過去のむし歯・歯周病の経験、プラークの量なども組み合わせることで、患者の口の中の「過去」「現在」「未来」が見えてきます。「なぜむし歯になったのか」という個別の理由を考えずに、「どうすればむし歯が防げるか」の答えは出ません。リスクアセスメントと定期的なバイオフィルムの除去は、車の両輪のようなものなのです。

 当院もそのやり方を続けていますが、15年間メンテナンスに通う患者852人が失った歯の本数は、1人わずか0.5本です。「予防という治療」の重要性に、歯科界全体が気づくべき時期になったのだと思います。

週刊朝日 2012年10月26日号