記録的な円高、格差や貧困、震災復興や原発事故の処理など、難問が山積したまま、今年6月、消費増税関連8法案が衆院で可決した。出口の見えない日本経済に「特効薬」はあるのか? ベストセラー『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)の著者である京都大学教授・藤井聡氏に話を聞いた。

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 日本がここまでダメになったのは、アメリカ的な資本主義、新自由主義といったものへの「コンプライアンス」にあります。コンプライアンスは、法令遵守と訳されますが、そもそもは、服従する、こびへつらうといった意味です。幕末の黒船襲来、太平洋戦争の敗戦と流れはありましたが、国内の慣習や文化が免疫となって、かろうじて守られてきた日本的な社会が崩壊してしまったのです。

 引き金になったのが、1989年からの日米構造協議です。その後、90年代後半、橋本首相の行財政改革でより過激にアメリカ的な考えが入ってくるようになり、決定打が2000年代の小泉首相・竹中経財相の構造改革。新自由主義の名のもとに、商慣習や業界協定などの規制がどんどん撤廃されて、市場競争が激化しました。

 市場は金がものをいう世界。金持ちが正義になる空間ですから、市場を規制するというのは、いわば金持ちを規制するということです。規制とは多くの弱者を守るために設置されてきたものなのです。それらが撤廃された結果、多くの人が不幸になった。先般の高速ツアーバス事故は典型です。

 新自由主義を進めていっても景気は絶対によくなりません。いま景気が悪い理由は、企業の生産性が低いからではない。失業している人、生活が苦しい人が多いからです。需要が縮小し、ものが売れない。この状況下で、競争して成功するには、さらに人件費を下げ、雇用も削らなければいけない。だから、大企業が構造改革をして生産性を高めていくと、失業者が増えて、給料が減るのです。

※週刊朝日 2012年8月17・24日号