2012年6月8日。この日は、原発史上においてどう評価され、後世に語り継がれることになるのか。世界最大の原発事故を起こした国のトップが、原発再稼働に舵を切った。そして、事故当時の電力会社社長があいまいな証言を繰り返した。

 この日、国会の原発事故調査委員会に東京電力の清水正孝前社長が現れた。

 焦点の一つは、海水注入中止の指示をしたのは誰か。事故調の質問に対し、清水氏は、こう述べた。

「原子炉を冷やすことが最優先だと考えていた。(廃炉につながる)海水注入をためらってはいない」

「官邸に詰めていた武黒(一郎・東電フェロー=当時)から国の了解がないままに進めることはいかがと連絡が来た。それ(一時中断)を是認した」

 週刊朝日は、『福島原発の真実最高幹部の独白』(朝日新聞出版)でおなじみの福島第一原発(フクイチ)最高幹部に話を聞いた。清水氏の発言を聞いていた最高幹部は、強く握った拳が震えていた。

 廃炉をためらっていないって、そんなウソを言っていいのか。これを見てくださいよ。ここですよ

 そう言った最高幹部は、ファイルから数枚のペーパーを取り出した。指さした先には、こう書いてあった。

「海水・廃炉、損失大、回避が最善」「(海水の)注水、判断苦し 現場はまったナシ。時間ない」

 これは、本店(東電本社)の幹部が書いた事故当時のメモで、私にコピーをくれた。そのとき、この幹部は私にこう言いました。

「海水を入れると廃炉になるので、トップが海水注入の決断を渋っていた。必死で闘う現場と本店の温度差を感じた」

 その後、私もいろいろと本店で情報収集しました。

「清水氏ら本店幹部が海水注入をすぐに決断できなかったのは間違いない」というのが私の結論です。

※週刊朝日 2012年6月22日号