いまだ収束せず、検証も対策も中途半端な原発事故。口では謝罪を言うが、責任はだれも取らない。このままでいいのか。被災した福島県民が勝俣恒久会長ら東電幹部らの刑事責任を問おうと、6月11日、業務上過失致傷容疑などで福島地検に告訴する。

 事故前、原発から約45キロで喫茶店を営んでいた告訴団長の武藤類子さん(58)は言う。

「県内に残った人も避難した人も、困難な暮らしを強いられてきました。そうした苦労に対して、信じられないことがありすぎて。国や東電の津波対策は十分だったのか。東電社内ですら、もっと高い防波堤が必要という声がありながら、何もしなかった。そうした話を聞くたび、責任の所在をはっきりさせなければと思うようになりました」

 原発差し止め訴訟を多く手がけた河合弘之弁護士と、薬害エイズ被害者の救済などに取り組んできた保田行雄弁護士が弁護する。

 一義的な責任は、言うまでもなく東電にある。

「ところが東電は賠償も、あたかも施しをするかのような不誠実さです。強制的に被曝させられた事実を明確にし、事故の責任者をはっきりさせなければ、福島の復興につながりません」(保田弁護士)

 昨年、作家の広瀬隆さんらが東京地検に刑事告発をしたが、事態は進んでいない。そこで第三者による告発でなく、被災者自身による告訴にした。福島地検なら、同じ被災者でもあり、訴えをむげにできないと考えた。告訴する相手は数十人規模になるという。

「津波対策を怠ったことが最も明快な刑事責任です」

 と保田弁護士は言う。

※週刊朝日 2012年6月15日号