福島第一原発で事故対応にあたった最高幹部の一人が取材に応じた。最高幹部は地震直後からメモを書き残していた。そのメモをもとに、当時を振り返った。

 原子炉建屋の中にいた作業員たちは、あまりの揺れでパニックになり、「外へ出せ」と警備員につかみかかった。厳重なセキュリティーゲートのカギを解除し、線量計などを返却しないまま、外に出た作業員もいたという。

 中央制御室から「配管や電気系統がたいへんだ」と連絡が入った。けが人がいるらしいという報告も上がってきた。まずは、けがをした人を把握し、救急車を手配しなければならない。

 あちこちであわただしく、人が動いていた。

「とにかく避難が優先だ」と施設内に放送を流し、情報収集を進めた。だが、そのときは揺れがおさまったことで安堵していた。原発の世界では、地震でもっとも危ないのが浜岡原発(静岡県)、その次は女川原発(宮城県)とされている。私には、「女川は大丈夫なのかな」と思いを巡らせる余裕もあった。

 だが--。

*今西憲之+週刊朝日取材班著

『最高幹部の独白~福島原発の真実』

より抜粋

週刊朝日