【トップ指導者対談】平井伯昌×眞鍋政義

平井 眞鍋監督と僕は、ものすごく指導のスタイルが似ています。これは監督の著書『チームのスイッチを入れる。』を読んで思ったことなんです。バレーボールは団体競技だし、身体能力で勝る海外選手に組織力で対抗しようとされているけど、眞鍋監督も結局は選手一人ひとり個別に対応されている。データを重視している点も同じだと思います。

眞鍋 個々の能力をいかに引き出すか、によってチーム力は変わると思っています。団体競技とはいえ、まずは個々のレベルアップからです。監督として私が大事にしているのは、「情熱」と「勉強」です。情熱を持つのは当たり前のことですよね。世界と日本の差は今も大きい。就任してまずコーチ陣には「世界のバレーを勉強して、まずは情報量で世界一になろう」と伝えました。それが昨年の世界選手権で3位という形でひとつ実を結びました。スポーツの世界は結果がすべてですから、指導者として嬉しい瞬間でした。

平井 指導者がやりがいを感じるのは、選手が好成績を残してくれたときなのは確かです。ただ、僕らはバレーや他のスポーツに比べて試合数が少ない。つまり「報われる瞬間」が少ないんです。だから、結果ばかりにやりがいを感じていたら、指導者は続けられないとも思うんです。

--眞鍋監督は、新日鉄ブレイザーズで選手兼任監督を務めたり、その後にイタリアに渡ったりして、41歳まで現役を続けました。そして引退後すぐに女子の久光製薬の監督に就任したわけですが、「女子なら世界に対抗できる」が女子の指導を始めた理由でした。

眞鍋 今、男子の世界ランキングで日本は18位で、女子は4位です。残念ながら、男子は世界トップレベルのパワーやスピードが凄すぎてどうにもならない面があるんです。しかし女子であれば相手のスパイクをレシーブできる分、差を埋められる。僕はずっと男子のバレーを勉強してきましたが、だいたい女子の戦術は、男子から10年ぐらい遅れているんです。女子に男子の最新の戦術を持ち込めば、世界と勝負できると確信していました。

--女子と男子で、指導法で戸惑うことはありませんでしたか。

眞鍋 男子と女子ではぜんぜん違いますね。久光製薬の監督になって初めての練習の日、選手を前に15分ぐらいプレゼンテーションを行ったんです。すると全員がきょとんとした目をしていて、私の声が届かないんです。すぐには監督のことを信頼してくれないし、心をつかむまで時間がかかりました。これはとんでもないところに来たなと思っていました。男子と女子でルールは同じでも、メンタル面の気質がまるで違うんです。競泳の場合はどうですか?

平井 もちろん、違いますね。たとえば、北島康介への指導は、ライバルの話や、レースになったときの具体的な展開予想も話し合っていました。ところが女子の場合は、「私が何をすればいいのかだけを教えてほしい」みたいな感じなんですよ。自分のことだけに精いっぱいで、ライバルの泳ぎの話をすると頭が混乱しちゃう。勝つために何をすべきか、それだけを求めてくるわけです。その分、指示したことに対しては純粋に取り組み、「そこまでやるか」というぐらいに頑張ります。

眞鍋 女子選手の場合、指示したことはそのまま取り組んでくれますけど、「臨機応変」ということを知らない(笑)。彼女たちが監督である私を信頼してくれているうちは楽なんですが、誰かが監督を嫌になると、全員が監督を嫌いになって別な方向を向く。女子を指導するほうが気を使いますよね。ただ、女子サッカーのなでしこジャパンを見ても思うことですが、チームが一つにまとまったときに発揮される力は、男子以上にあるような気がします。

平井 女子選手は集団でまとまって行動をする。一人ひとりが高い意識を持った上で、団体行動をするなら問題はないんですけど、束になって「これくらいでいいんじゃない?」と妥協しちゃう。この点が女子選手の指導のやりにくいところですね。男子は群れることが少ないし、全員の前で怒られても平気なんです。

眞鍋 女子選手は、みんなの前で怒っていい選手と、個別に怒らなければいけない選手がいる。女子の人気選手である狩野舞子は、非常に繊細な子なので、一人だけ呼んで指導したほうが頑張るタイプですね。

◆「世界記録目指すぞ」と北島は本気になった◆

--眞鍋監督は、マネジャーに最近髪形を変えた選手を教えてもらって、その選手に「お、髪の毛切ったな」と伝えるようなことも心がけているそうですね。

眞鍋 僕が気付くことができればいいんですが、女性の髪形の変化なんて、そうそう気付かないじゃないですか(笑)。女子選手は、些細なことに気付いてもらうだけでも、「監督は気にかけてくれている」と信頼を寄せてくれる。それで競技へのモチベーションも高めてくれるなら、何でもやりますよ。

平井 現役時代の中村礼子(アテネ・北京五輪の200メートル背泳ぎ銅メダリスト)も、髪形の変化に気付かないとすねていましたね。僕はアテネ五輪のときに、験担ぎでヒゲを伸ばしていたんですが、北島が二つ目の金メダルを取ったあとに剃ったんです。ところが、中村が私の変化に気付いたのは数日後ですよ。その間、ずっと一緒にいたのに......ものすごくむなしくなりました(笑)。

眞鍋 平井コーチは、北島選手を中学2年から指導されていたんですよね。

平井 高校生だった00年にシドニー五輪を経験(平泳ぎ100メートルで4位)し、翌年の福岡世界水泳で銅メダルを取って、いよいよ金メダルを目指そうとなったときの意識付けがターニングポイントでした。私はアテネ五輪までの3年間で「世界記録を目指すぞ」と伝え、本人に「世界一になれるんだ」ということを自覚させました。周囲からは笑われましたよ。あいつは素直だったので最初から本気にしてくれましたが、ふつうの選手は「私が世界一なんて」という意識の壁が生まれてなかなか本気にはなってくれない。

眞鍋 北島選手は純粋なんですね。

平井 最初はメダルを狙う自信がなくても、成功や成長の積み重ねで、自信が芽生えてくることがあります。若い選手には技術的な指導よりも、そういう動機付け、意識付けがまず大切だと思います。ベテランになってくると、どうしても臆病になりますから。

眞鍋 私も09年の全日本女子チーム初招集時から、「12年のロンドン五輪で金メダルを取る」と言い続けてきました。過去の成績を調べると、五輪前年のW杯で3位以内に入った国が、翌年の五輪でもメダルを取っている。11月4日からW杯が始まりますが、私はこの大会を最重視していて、なんとか五輪切符が手に入る3位以内に入りたいと思っています。もしこの大会で出場権を逃せば、来年5月の最終予選に出場しなければならない。仮にそこで獲得できたとしても、五輪は7月です。わずか2~3カ月の間に2度もコンディションのピークを持ってくるのは、選手にとっては酷ですよ。それでは五輪にベストコンディションでは臨めない。メダルを取るためにも、このW杯で3位以内に入ることが絶対に必要なのです。

--失礼ですが、もしW杯で出場権を逃した場合のことは考えたりはしませんか。

眞鍋 まったく考えていません。山本愛、井上香織のスターティングメンバーふたりがケガで出場できないのは頭を悩ませるところです。でも私はこのことをプラスに考えています。新しい選手が活躍する場が生まれたと考えているからです。

平井 指導者は、失敗したときのことなんて考えないもんですよ。

◆「非常識を常識に」でハンディをはね返す◆

--3大会連続金メダルの期待がかかる北島選手は現在、アメリカに拠点を移しています。今年7月に行われた上海世界水泳では100メートルで4位、200メートルで銀メダルの結果に終わりました。彼の現状を平井コーチはどのようにご覧になっていますか。

平井 100メートルでアレクサンドル・ダーレオーエン(ノルウェー)にこてんぱんにやられたのはショックだったようです。9月に話したときも、「勝つ方法が見えてこない」と、珍しく弱気な発言をしていました。直接のコーチではなくなりましたが、インターネットで彼の泳ぎを見て、気付いたことはアドバイスするようにしています。

--「もう一度、俺の元に帰ってこい」とは言わないのですか。

平井 一度も言ったことはないですね。ただ僕が連絡を入れると喜んでくれるので、彼にとっての精神的支柱でありたいとは思っています。ロンドン五輪は、北島にとって最も厳しい戦いになると思います。

--眞鍋監督はW杯に向けて手応えを感じているようですね。

眞鍋 日本人選手は身長も低いし腕も短い。体格でかなわない分、日本人特有の長所を伸ばしていかないといけない。それは団結力であり、レシーブ力ですよね。コートでの練習はレシーブにかなりの時間を割いています。選手たちの腕は青たんだらけですよ。「非常識を常識に」を合言葉にして、海外選手にとって非常識なぐらいの、拾って拾って拾いまくる日本オリジナルの組織バレーを追求していきたいと思います。

平井 競泳も背の高い選手が有利なのは確かです。バレーボールは背が高い選手が多いので、ここ(ナショナルトレーニングセンター)で競泳とバレーボールの練習が一緒になったりすると、ついスカウトしたくなる選手もいるんですよ。

眞鍋 うちのキャプテンの荒木絵里香は186センチあるんですが、実は泳ぎもうまいんです。疲労回復のためによくここのプールで泳いでいますので、一度のぞいてみてください。

平井 本当ですか? 今度見に行ってみますね。

眞鍋 でも、クジラに見間違える可能性がありますけど......こんなこと言うと、荒木に怒られちゃうかなあ(笑)。  (聞き手・構成 柳川悠二)

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ひらい・のりまさ 競泳日本代表ヘッドコーチ 1963年、東京都生まれ。86年、東京スイミングセンターへ入社。北島康介をアテネ・北京両五輪金メダル、中村礼子をアテネ・北京両五輪銅メダルに導いた。現在、ロンドン五輪に向けて寺川綾、加藤ゆか、上田春佳らの指導をしている

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まなべ・まさよし 全日本女子バレーボール監督 1963年、兵庫県生まれ。85年から2002年まで全日本代表、セッターとしてコートに立つ。05年に現役を引退、08年、全日本女子バレーボールチーム監督に就任。10年、世界選手権で3位に入り、32年ぶりのメダルを獲得した


<大会情報>
【バレー】ワールドカップ女子大会 11月4~18日(広島、札幌、東京ほか)=参加12カ国の3位までが五輪出場権を獲得
【競泳】ワールドカップ東京2011 11月12、13日(東京)=北島康介、イアン・ソープ(豪)らが出場予定


週刊朝日

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