「古川知事が九州電力に『やらせメール』を指示していたと聞いても、まったく驚きませんでした。『また今回もか』という思いのほうが強かったとです」(元県庁職員)

 玄海原発(佐賀県)再稼働に向け、今年6月に県民向けに放送された番組内で、九州電力の社員らが運転再開を求める「やらせメール」を投稿していた問題について、第三者委員会(委員長=郷原信郎弁護士)は、「知事の発言が発端」と県や古川康知事(53)の関与を認めた。ところが、九電は国に提出する最終報告書に県や知事の関与を盛り込まず、古川知事も責任を否定し続けている。

 もっとも世間にとっての非常識は、知事には常識なのかもしれない。というのも、こんな"前科"があったのだ。

「05年、県立病院移転をめぐって、佐賀市の『どんどんどんの森』内の市有地の提供を希望する県と、市が対立したことがあった。その際も、同じような"やらせ疑惑"が持ち上がったのです」(前出の元県庁職員)

 佐賀市は同年5~7月にかけて、市民に「パブリック・コメント」を求めたが、締め切り日になって、それまで劣勢だった賛成意見が急増、投稿549件のうち賛成が303件と、反対を上回った。

「9月の県議会で、県職員による"やらせ投稿"ではないかと指摘されたのですが、当時の坂井浩毅統括本部長(現・副知事)が『意見があれば出すよう職員に言った』と職員に投稿を指示したことを認めたのです」(同)

 古川知事も「職員が県民の一人として、意見を出すことはある」と問題視しなかった。

「知事は自身の指示を否定しましたが、賛成の83%にあたる252件は締め切り日に寄せられている。県が組織ぐるみでやったとしか考えられない」(同)

 また、知事はかねて原発に対して「中立」を主張してきたが、06年3月に玄海原発のプルサーマル計画を事前了解した際には県職員全員に、こんなメールを送っていたこともわかった。

〈皆さんがお住まいの地区で話題になりそうな事項を問答形式でまとめてみました〉という長文のメールには、滑らかな佐賀弁で10の想定問答が書かれている。

〈Q4・県や玄海町は、国から交付金が貰えるけん、進めようとしているように見ゆっばってん、人命軽視で許されんことばい〉〈A・交付金を目当てに事前了解したわけではない。それは行政のイロハじゃなかと。(略)原子炉の制御の効き方など8事項・12論点を検証して安全性は確保されると判断したごたっよ。(略)玄海原子力発電所が操業して30年、大きな事故はなかったことによっ信頼感はあるとじゃなか。他の電力会社とはここが違うとじゃなかね〉

 およそ"中立"には見えないではないか。

 古川知事は本誌の取材に対し、こう回答した。

「これまでも県議会や会見の場で説明してきたとおり、私はやらせメールを要請してはおらず、この問題で職を辞す考えはありません」

 九電と古川知事の癒着を指摘した第三者委員会の郷原委員長はこう言う。

「知事が今なすべきは、過去の九電との不透明な関係を認めたうえで、新たな枠組みで原発問題を判断していくことです」

 知事の政治団体は九電幹部から献金を受け取っており、パーティー券購入を求めたことなども明らかになっている。そんな知事に、果たしてできるのか。 

週刊朝日

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