セシウム不安で21世紀の"米騒動"勃発 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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セシウム不安で21世紀の"米騒動"勃発

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 各自治体による新米のセシウム検査実施の方針が報じられた8月2日、首都圏各地のスーパーや米穀店で"異変"が起きた。新米の入荷を控え、例年ならこの時期は売れ行きが鈍る2010年産米を買いだめする消費者が殺到したのだ。

「多い人は、50~60キロほど買っていきましたね。ひと袋5キロの10年産コシヒカリを10袋くらいカートに積んで、重たそうに運んでいった年配の女性もいました。3月の震災直後にはまとめ買いするお客様が目立ったものの、その後は落ち着いていたのですが......。行政が安全のためにコメの放射性物質を検査すると発表したことが、逆に消費者の不安をあおってしまったのではないでしょうか」(都内のスーパー経営者)

 都内の別の食料品店でも、主婦から高齢者まで幅広い客層の人たちがコメをまとめ買いしようと訪れて、品不足気味になっている。経営者の男性は言う。

「10年産は、まだまだお客さんの問い合わせが多いのに、すでに卸売業者から入手できません。収穫が始まった11年産米も、宮崎、鹿児島産の早生種の新米があっという間に売り切れてしまいました」

 まるで、記録的な凶作で1993年に起きた「平成の米騒動」を彷彿とさせる光景ではないか。

 当時を知る都内の男性(42)が振り返る。

「近所のスーパーではコメ売り場の棚が空っぽになって、政府が緊急輸入したタイ米しか残ってなかった。仕方なくタイ米を買ったけど、結局、ほとんど食べなかったなぁ。国産米が入荷すると客が殺到して、ホント、すごい騒ぎだったよ」

 消費量が減ったとはいえ、日本人にとってコメは毎日食べる主食だけに、手に入らなくなったときの影響はほかの食品とは比べものにならないほど大きい。

●甘い検査態勢で解消されぬ不安

 しかも、ほかの農産物より厳しいとはいえ、政府や自治体の検査態勢は消費者の不安を解消するにはほど遠い。買いだめに走ってしまうのも無理からぬことではある。

 農林水産省から検査の要請を受けたのは、東北、関東などの17都県だ。日本有数の米どころがずらりと並んでいる。

 農水省の方針では、土壌のセシウム濃度が1キロ当たり1千ベクレルを超えるか、空気中の放射線量が毎時0・1マイクロシーベルトを超す地域に限り、収穫1週間前の玄米を調べる。収穫後には、新たに自治体が場所を選び、再び検査する。

 収穫前の検査で1キロ当たり200ベクレルを超えるセシウムが検出された場合は、市町村単位で「重点調査区域」に指定され、15ヘクタールに1カ所の割合で収穫後の玄米の検査が行われる。

 検査で1キロ当たり500ベクレルを超えると、市町村単位でコメの出荷が停止される。

 この検査について、民間検査機関の職員はこう指摘する。

「汚染物質はもみ殻にたまるので、玄米の段階で検査をするのは、白米を検査するより厳しい基準で評価できます。ただ、他の農産物もそうですが、検査のサンプル数が少なすぎます」

 すでに明らかになっているように、セシウム汚染はまだら状に広がっていて、思わぬところに周辺よりも汚染度が高い「ホットスポット」が存在する。

「同じ農家の水田でも場所によって濃度の高低があるはずで、もっとサンプル数を多くしないと実態はつかめません。検査の機材不足という要因もあるでしょうが、手早く安全だということにして、農家のために出荷を急ぎたいのが行政の本音ではないでしょうか」(前出の検査機関職員)

 たとえば、すでに検査を終え、安全を確認した千葉県にしても、約4万9千ヘクタールの水田に対し、収穫後に検査した地点は271にとどまっている。消費者が「千葉産米はすべて安心だ」と確信をもてるほどに、綿密な検査といえるかは微妙なところだろう。

 コメ業界では、そんな消費者の不安に便乗してひと儲けしようと狙う動きも出ている。

 流通ジャーナリストの内田裕雄氏が指摘する。

「震災後に、品不足になる懸念から10年産米の買い付けに走った卸売業者が多数ありましたが、その中にはいまだに在庫を抱えている業者があるようなのです。10年産米は業者間取引の価格が上がっており、『セシウム不安で新米の売れ行きが悪かった場合、さらに値上がりするかも知れない』という思惑があるのでしょう」

 コメ卸に詳しい関係者もこう話す。

「10年産米は猛暑で仕上がりの悪いコメが多く、精米として売り物になったコメは例年より少ないと言われていました。加えて一部の業者が抱え込んでいるために、市場に10年産米はほとんど流通しておらず、卸にとっても手に入りにくい"レア商品"となっています。こうした状況下で、消費者の不安心理に火がつけば、一気に値上がりする可能性があります」

 今後、コメはどのような値動きをすると予想されるのだろうか。

 コメの流通に詳しい宮城大の大泉一貫(かずぬき)副学長(食品流通事業論)が解説する。

「コメの価格がどうなるかは、予測が非常に難しい。すべては新米に対する消費者の反応がどう出るかにかかっています。消費者が被災地以外の新米や古米ばかりを買うと、東北から離れた地域のコメは『不足感』から値上がりし、被災地や周辺のコメは値下がりするでしょう。消費者の不安がさらに強く、主食をパンやめん類に大きくシフトした場合には、コメ全体が値下がりし、10年産米の価値が低くなってしまうことも考えられます」

 流通ジャーナリストの金子哲雄氏によると、新米は、銘柄によって業者間取引で例年より3~5%値上がりしているものの、流通量が安定する9月下旬には、例年並みに落ち着くとみられるという。

「そもそも、大手スーパーや外食チェーンは、一般に卸売業者などと3カ月から6カ月の間、価格を変動させない定期売買契約を結び、安定した価格で取引する仕組みを作っているため、小売価格を大幅に値上げすることはあり得ません。また、新米、古米にかかわらず、コメは値段が上がると消費量が下がってしまう商品です。業者間取引の価格が上がったとしても、小売価格に転嫁することは難しいんです」

 だとすれば、私たち消費者が現段階で不安に駆られ、コメを買いだめする必要はまったくないことになる。

 都内の米穀店店主も、まとめ買いは無意味だとしてこう話す。

●コメの「備蓄」は素人には不可能

「言葉は悪いですが、素人にコメの長期保存なんて無理ですよ。コメの保存は低温が望ましい。家庭で長期保存するなら冷蔵庫に入れるか、専用の冷蔵庫を買うべきです。猛暑の中でコメを室内で保管したら、早ければ2~3週間で虫がわいてしまう。最もポピュラーなコクゾウムシなんて、一度に卵を数百個も産むので、気づいたときにはすでに遅し。米びつ全体が虫だらけになっていることもあります。放射能が怖いと言っている方が、そんな虫食い米を食べられますか? 長期保存のリスクをしっかり説明せず、安易にまとめ買いを促すような店の商品は、買わないほうがいいでしょう」

 消費者の混乱が深まる中で、コメを扱う業者の間では、買い手のつかないコメの行く先をめぐって嫌なウワサも飛び交い始めている。

 JAS法では、「産地」「品種」「産年」が同一のコメには、産地表示が義務づけられている。

 だが、複数の産地や品種を混ぜたブレンド米は、「国内産」か「外国産」かを記すだけでよい。都道府県名の記載はあくまで任意にすぎないので、簡単に"産地隠し"ができてしまう。

 産地表示が義務づけられたコメにしても、消費者に人気の新潟県・魚沼産のコシヒカリは過去にたびたび偽装事件が起きている。

 08年には、大阪市の米穀加工販売会社「三笠フーズ」が、工業用(非食用)として仕入れた事故米を酒造会社などに転売していたことが発覚。その後、愛知や新潟の企業でも、事故米の不正転売が明るみに出た。

「コメの世界は、昔から闇の世界だなんて言われてきた。売れないコメがブレンド米になるぐらいなら、味は落ちても健康上の問題はないが、買い手のない"食べられないコメ"を抱えてしまい、よからぬことを考える業者が出ないとは言い切れません」(前出のコメ卸に詳しい関係者)

 つまるところ、信頼できる店を見つけるのが一番ということだ。

 前出の金子氏もこのように断言する。

「消費者は根拠のない風評に振り回されず、普段どおり食べたい量だけを買えばいいんです」

 93年の「米騒動」では、緊急輸入したタイ米や中国米が大量に余り、最後は途上国援助(ODA)や家畜のえさに回すという失礼なことをした。

 米騒動は、我を失った消費者心理が生み出すものでもある。不安に駆られても、無用な買いだめをぐっとこらえ、普段どおりの暮らしを心掛けよう。 (本誌・國府田英之)


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