5月28日、ついに多機能携帯端末「iPad(アイパッド)」の国内販売が始まった。

 当日、午前8時から、ソフトバンク表参道店(東京都渋谷区)で開かれたセレモニーには、発売の日を待ちに待った約300人が長蛇の列を作った。

 列の先頭に陣取っていたのは、段ボールで作られた実物大のiPad帽子をかぶった30代の男性だった。

「すでに予約を済ませていますが、やっぱり誰よりも早く手にしたいじゃないですか。だから、昨日の18時から並びました」

 そうまでして入手したいiPadの魅力とは何なのか。念願のiPadを目の前にして少し興奮気味の男性は、こう答えてくれた。

「やはり使いやすさですね。画面も大きいから子どもとも遊べますし、ご年配の方でも、まったく問題なく使えると思いますよ。実際に僕の周囲には自分用ではなくて両親に買ってあげたいという声が多いんです」

 iPadを開発したのは、パソコンのマッキントッシュや携帯電話のiPhone(アイフォーン)を作った米国のアップル社だ。日本での販売はソフトバンクモバイルが独占的に手掛けている。

「最先端の端末」と聞くと、使いこなすにはそれなりの技術と知識が必要そうだが、iPadは、むしろ、これまでパソコンに触れることが少なかった子どもや高齢者たちにこそ、おすすめなのだという。

『iPadvs.キンドル』(エンターブレイン)などの著書がある、ITジャーナリストの西田宗千佳さんは言う。

「そのとおりだと思います。技術的な問題でパソコンを敬遠してきた人も、iPadなら、比較的楽に使えます。起動から表示まではほんの数秒。たとえ老眼であっても、文字を大きくしやすいので大丈夫ですよ」

 論より証拠。実際に記者が使ってみると、30秒ほどでウェブにつながった。これは確かに早い。普段、記者が使っているノートパソコンだと、立ち上がりに2、3分はかかる。

 料金の面でもお得感がある。目の前のiPadの本体価格は約6万円とネットブック並み。通信費は購入後24カ月は1カ月約2900円(以降は約4400円)でウェブにつなぎ放題のデータ定額プランもある。

 ここまでの操作は、初期設定を済ませて、電源を入れて、ロックを解除して、ボタンを押しただけ。それだけでウェブにつながった。使った指は右手人さし指と左手親指の2本だけ。

 インターネットを使って旅館の予約をしたり、好きな歌手のコンサート情報を調べたりしたくても、パソコンは複雑だからと敬遠してきた人たちにとっては、まさにiPadはうってつけの端末だろう。

 また独創的な操作性についても触れておきたい。パソコンでは、画面の前にキーボードがあって、カチャカチャと音を立てながら打つイメージがあるが、iPadではスクリーンを直接、指で触って文字を打ったり、絵を描いたり、文字の大きさを調節したりする。慣れれば直感的に使えて、ご年配の方に向いているかもしれない。

「実際に知識欲があってもパソコンを使うのは難しそうという理由でウェブの世界を食わず嫌いのままでいる人は少なくありません。そういう人たちにとって、iPadは最適な端末なんです」(西田さん)

 ノートパソコンより値段が安くて、持ち運びもできて、ウェブにつなぎやすいとなれば、パソコンが使いたくても使えなかった中高年にとって、iPadは「買い」のような気もする。

 売れ行きも好調のようだ。西田さんは発売から1年間で、最低でも全世界で500万台、日本で50万台は売り上げるだろうと予測している。

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