1月になるとオホーツク海沿岸で見られる流氷。毎年、流氷の初観測日がニュースになりますが、あの大きな氷塊はどこで生まれて、どうやって日本に流れてくるのでしょう。

流氷の海から紋別を望む
流氷の海から紋別を望む

オホーツク海は陸で囲まれているので、外海と混ざらない

網走や紋別など、北海道のオホーツク海側の沿岸には毎年1月になると流氷が押し寄せてきます。しかし、北海道でも同じように気温が低い釧路の沿岸には、流氷はやってきません。それはなぜなのでしょう。
地図を見てみると、オホーツク海は四方を島や陸地で囲まれていることがわかります。オホーツク海というふうに“海”とよばれていますが、大きな視点で地図を見ると、太平洋とは隔てられ、実際はまるで巨大な湖のような地形です。外の海との海水の交換が非常に少ないため、“閉ざされた”海といっていいでしょう。
このように、点々と続く島々によって南下する流氷の進路が遮られるので、流氷が四方に広がらず、オホーツク海の内部にとどまるのです。

流氷はサハリン北東部の海で生まれる。アムール川の氷ではない

オホーツク海の流氷は、どこからやってくるのでしょう。以前は、凍ったアムール川の氷がオホーツク海に流れ、それが北海道までやってくるのではないか、という説がありました。しかし、1990年代の実験により、実際はサハリンの北東部の海が凍って南下し、それが北海道まで流れてくることがわかりました。
その後さらに調査が進められ、人工衛星の観測によると、オホーツク海北部の海岸では、海上に薄い氷が次々と発生し、それがシベリアからの冷たい北風によって南に流されることがわかりました。
薄い氷はオホーツク海を流されながら成長してどんどん厚くなり、北海道にやってくるころにはかなり分厚くなる、というわけです。

天然記念物のオオワシが訪れる
天然記念物のオオワシが訪れる

塩分の濃度が違う“2層構造”。上層は塩分が薄く、下層は濃い

では、なぜオホーツク海の北部では海水が次々と凍るのでしょう。
サハリン北部の沿岸には、ロシアのアムール川から大量の淡水が流れてきます。外界との交流が少ない海なので、川からの水が海に混ざりきることはありません。すると、海面と海底では塩分の濃度が違うという現象が起きます。
オホーツク海は、海面から50mまでは塩分濃度が低い海水、50mより下では塩分濃度が高い海水の2層に分かれることになります。この2層の海水は混ざることはないので、塩分が濃い海水の上に、塩分が薄い海が乗っかっているといってもいいでしょう。
真水は0℃で凍りますが、塩分を含む海水が凍るのは-1.8℃。オホーツク海の上層は塩分が薄いので、普通の海水よりも早く凍り始めます。そこにシベリアからの冷たい風が吹きつけるので、さらに早く凍ります。
オホーツク海は、陸に囲まれた特殊な地形、塩分の濃度の極端な違い、シベリアからの寒風。これら3つの条件がそろっているゆえに、毎冬、北海道に流氷が押し寄せるてくるのです。

オホーツク海は北半球の流氷の南限。北海道で見られる奇跡

北半球の海では、北極付近は四季を通じて氷が張っています。ところが、オホーツク海は緯度が低いにもかかわらず、3つの自然条件が重なっているため、流氷が生まれます。特に北海道の網走市の緯度は44度。これは、フランス中部の緯度と同じですが、このような低い緯度にもかかわらず流氷が訪れるのは、オホーツク海の特殊な環境によるものといえるでしょう。
〈参考:環境省「豊な生命を支える海氷」〉
〈参考:毎日小学生新聞「きょうのなぜ? 流氷はどこから来るの?」〉
〈参考:北海道立オホーツク流氷科学センター「わかるかな? 流氷Q&A」〉
〈参考:北大大学院環境科学院 ガイア「北海道と地球環境 3月 網走」〉
オホーツク海は流氷の南限です。さらにそのもっとも南端が、北海道の網走や紋別などです。いくつもの自然条件が重なり、日本でも流氷が見られる奇跡。今年も流氷クルーズや流氷ウォークなど、流氷のイベントが始まります。一生に一度は真っ白な氷の海を見ておきたいですね。

流氷ウォーク。日本で流氷が見られる奇跡。
流氷ウォーク。日本で流氷が見られる奇跡。