七十二候「山茶始開(つばきはじめてひらく)」。ツバキと呼ぶのは、たきびの道の

2015/11/09 11:00

秋から冬への変わり目に降る長雨を「サザンカ梅雨」と呼ぶそうです。立冬の幕開けは、11月7日〜11日頃にあたる『山茶始開(つばきはじめてひらく)』。この「つばき」というのはツバキではなく、サザンカのことなのです。童謡『たきび』にも登場する冬の花が、いつもの道にポツン、ポツンと咲き始めています。

通行人を励ますサザンカさん
通行人を励ますサザンカさん
いま咲くのは一緒に冬を耐えるため? だんだんグレイになってゆく町に、気分もついふさぎがち。そんな時季、いつもの道端や生け垣の緑に ポツンポツンと見え隠れする、赤やピンクや白のまるい花・・・それがサザンカ(山茶花)です。 ほとんどの花が冬を前にお休みに入り、これから寒くなるというときになぜか咲き始めます。まだ寒さに慣れない人の体の歩みを 励ますためでしょうか。かつて京都では、遠くから訪ねてくれた人に見せてあげられる貴重な冬の花でもありました。 「山茶花を旅人に見する伏見かな」井原西鶴 サザンカは、ツバキ科ツバキ属で、日本原産の花だといいます。 『サザンカ』という呼び名は、「 山茶花( さんざか)」が転訛したものといわれています。山の茶の花、という意味で、同じ種である「チャ」の花に似た姿をもち、葉をお茶としたからという説があります。ちなみに中国では、「山茶花」はツバキを指すそうです。ちょっとややこしいですね。 女性としてのツバキさんとサザンカさん 古い時代には、ツバキとサザンカは厳密に区別されていませんでした。ツバキ油のように、サザンカも実から油をとることができます。どちらも、女性に例えるなら西洋の花々より控えめな大和撫子・・・けれど、二人はよく見るとかなり性質が違っていました。 サザンカさんは冬のはじめから寒さ厳しい2月頃まで咲き、ツバキさんはおもにその後から4月頃まで咲きます。季語としてもサザンカが初冬なのに対してツバキは春、シフトでいえば深夜勤と日勤くらいキツさが違う気がします。 二人は 色もデザインも似た服を持っているのですが、纏(まと)い方が全く異なるようです。ツバキさんの体つきは、しっかりとゴージャス。モダンで華やかなオーラを放っていて遠くからでも人目を引き、よく絵や音楽のモデルにと乞われます。それに比べて、サザンカさんは目立たないタイプ。少し小柄で「ヒメツバキ」「コツバキ」などと呼ばれ、素朴で儚げな佇まいです。 そして、もっともちがうのは その散りぎわ・・・ ツバキさんはポトリ、と 花ごと落ちます。「斬首のようで縁起が悪い」と避けられるくらい、潔く凛とした散り様。かっこいいですね。一方 サザンカさんは一枚ずつ、ハラハラと涙のように花びらを落としながら散るのです。 可憐ですね。 赤い花を咲かせても、サザンカさんに「情熱」などの花言葉はみあたりません。それどころか「あなたが一番美しい」って、なんという謙虚さなのでしょう! 毛深い女性は情も深い、などといわれますが、サザンカさんの葉や雌しべの子房には、ツバキさんにはない毛が生えているといいます。
妖艶なオーラを醸すツバキさん
妖艶なオーラを醸すツバキさん
たきびのそばで見守るように さざんか 山茶花 さいた道 たきびだ 焚火だ 落葉たき あたろうか あたろうよ 霜やけ おててが もうかゆい (巽聖歌・詞 童謡『たきび』より) サザンカの花言葉には「困難に打ち勝つ」もあります。花のない季節をカバーするように、雪ニモ負ケズ咲き続けるサザンカさん。寒風の中を登下校する子供たちにも応援する気持ちが伝わっていたのでしょう、焚火にあたろうかと相談する目には、ちゃんとサザンカさんが映っています。 丸まって満足そうに咲くツバキさんは 少々内向きでミステリアスな風情ですが、サザンカさんは 平らに咲き開いて、手の中をみんな見せてしまいます。『椿姫』など気高いイメージのツバキさんに対して、サザンカさんはあくまで庶民派。そんな親しみやすさから、子供たちは安心してサザンカさんのそばで遊ぶのですね。 童謡『たきび』からは、サザンカが冬の住宅地に暖かい色を添えていることがうかがえます。 現在、町なかで焚火をして焼き芋を食べている人はみかけません。すでに昭和の時代でも、消防への配慮から、この歌を紹介するときは挿絵に必ず消火バケツなどを描き入れるよう指導されていたといいます。霜やけになる子も、もうあまりいないようです。人の暮らしや風物詩は変わっても、北風が「ぴいぷうふいている」町にポッと灯ったサザンカの色は、私たちを癒してくれますね。 いつもの道を歩きながら、可憐なまるい花を探してみませんか。
顔に雪がついてもがんばるサザンカさん
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