雨の日に着るレインコート。ステンカラー・フード付き・モッズ風…様々なタイプがありますが、やはり真っ先に浮かぶのはトレンチコート。カチッとしたシルエットにハリのある素材、難易度は高いですが、サラッと着こなせたらおしゃれ上級者になれそう、と憧れている方も多いのでは。
誕生の歴史、ハンフリー・ボガートなど多くのセレブ達に愛され現在もファッションアイテムのトップに君臨し続けるトレンチコート。知れば知るほど、やはり素敵に着こなしてみたくなりそうですね。
第一次大戦時に開発されました
現在もそのディテールは変われど長年愛され続ける様々なファッションアイテム。
カーディガン・レインブーツなど実用性とデザイン性に優れ、トラディショナルで世界中の人々に愛用されているファッションアイテムは歴史を紐解くと戦争という暗い歴史にたどり着くものが多いことに驚かされます。カーディガンは負傷した兵士を手当てしやすいようセーターを前開きにしたのが始まり。レインブーツは前回お話ししたよう元々は騎兵の脛を守る為開発されその後ぬかるんだ戦地で履けるようゴム製に改良されたという戦争と共に歩んできたものでした。
戦争という極限状態の中にあったからこそ実用性に優れ無駄を省いた機能美が備わったのかもしれませんね。ファッションと戦争、一見対極の存在に見えますが実は常に近い存在だったのですね。古代から様々な文化が生まれ繁栄してきたと同時に戦争も絶えなかったヨーロッパ。ヨーロッパ発祥のファッションアイテムが多いのもそんな歴史があるからでしょうか。
中でもトレンチコートはトレンチ=塹壕という名称がその名に冠さるほど、全てのディテールが「戦い」の為のものでした。敵からの攻撃から身を隠すために掘られた溝・塹壕…その塹壕戦の為に開発されたのがトレンチコートの始まりなのですから。
ベルトに付いたD型のメタルフックは何の為?
トレンチコートは大きな立ち襟と襟の下に付いたフラップ、ボタン付きのショルダーストラップ、ウエストベルトなど特徴的なデザインが随所にちりばめられていますね。
それら全てが過酷な戦地で戦い抜く為のものでした。大きな襟とフラップでキッチリ首元を閉め雨の浸入を防ぎました。もちろん戦時は傘など差せません。ボタン付きのショルダーストラップは水筒・双眼鏡等の備品や武器を掛ける他、負傷した仲間の兵士を引っ張る為にも使ったそう。ウエストベルトはキッチリ閉めて寒冷地では冷たい空気を入れない防寒の為。手首に付いたベルトも同様です。
そしてウエストのベルトに付いたD型のメタルフックは手榴弾を下げる為のものでした。現在レインコートとして着用する際は全く必要のないものですね。でも平和になった現在も、その名残を残しているのはデザインとして美しいのも去る事ながら先人達がもう二度とそのような目的には使わないで、と教訓のメッセージとして残してくれているのではないでしょうか。
劣悪な環境や悪天候を傘無しでしのいできたトレンチコート。今なおレインコートとして、又トラディショナルなファッションアイテムとして愛され続けている訳がわかってきましたね。
トレンチコートの特徴的なディテール、ベルト後部に付いたD型フック
ハンフリー・ボガート、オードリー・ヘップバーン…スターと共に。
「セレブ」「ファッションアイコン」などのキーワードが無い時代…フィルムノワール、ハリウッド黄金時代などまだまだスター達が雲の上だった時代…(今でも映画スターは雲の上の存在ですが、昨日スターが着ていた服はスマホで瞬時にわかってしまいますね)殆どのスターが袖を通していたと言っても過言ではないトレンチコート。きっと人々の憧れを一心に集めていたのではないでしょうか。トレンチコートの襟を立て中折れ帽をかぶり佇むボガート。スカーフとサングラスでキュートにトレンチを着こなすヘップバーン。当時はバーバリー社やアクアスキュータム社製の高級なものしか出回ってないでしょうから憧れのファッションアイテムだったのでしょうね。今では、様々なメーカーが売り出し、ファストファッションのお店でも気軽に手に入れられるようになりました。でもやはりいつかはバーバリーやアクアスキュータムの頑丈な撥水生地でしっかりと仕立てられた本家トレンチコートを手に入れたいですね。筆者もいつかはヴィンテージのバーバリー社製トレンチコートを…と憧れ続けて早うん十年。
最近のマニッシュテイストブームでトラッドが見直され再ブレイクのトレンチコート。レインコートとしてだけでなく、スニーカーやブーツと合わせてカジュアルに着たりと進化し続けるコーディネートとも常にシックリ馴染んでいるトレンチコート。再ブレイクというより常にブレイクしていて最先端にい続ける底力は、徹底した実用性と普遍的な機能美に裏打ちされているからではないでしょうか。
今の梅雨の時期、ちょっとした小雨位なら傘無しで歩ける機能を備えたトレンチコートの魅力を再発見できそうですね。