ロンドンの『大英博物館』をご存知でしょうか。700万点余りの所蔵品から選ばれた100点が、現在日本で公開されています。「人類の変化の歴史」を語れるモノであることが、セレクトの基準。人がその手で作り使用してきた、200万年間分(!)の作品たちによって、私たちの来た道と行く道が目の前でつながります。時空を超えた世界史の旅にでかけてみませんか。

『ウルのスタンダード』(楽器の共鳴箱?) の超贅沢モザイク画!
『ウルのスタンダード』(楽器の共鳴箱?) の超贅沢モザイク画!

「ものづくり」のふるさとは、アフリカ

私たち人類は全員、ルーツをたどっていくとアフリカに行き着くのだそうです。
火をおこす、文字を使う、道具をつくる・・・200万年分の展示「作品」から、人類は「ものづくり」を通して進化してきたこと、そもそも「作らずには、どうしてもいられない」生き物だということが、ひしひしと伝わってきます。
なにやら手のひらサイズの石の固まり『 オルドヴァイ渓谷の握り斧 (140〜120万年前)』は、現存する世界で最古の握り斧でした。 私たちが「人間であること」はここから始まった、その証拠品といわれています。
握り斧は、今でいえばアーミーナイフ。無人島に何か一つだけ持って行けるならコレ! 精巧な刃物は、ただガンガン叩いているうちにこんな形になったわけではないのですね。イメージし、デザインを伝え、複雑な技術を後輩に教える・・・「ものづくり」と「言語」は脳の同じ領域を使うことから、言葉もこのときに誕生したのではと考えられています。「手を動かすと頭が良くなる」は真理のようです。
道具は、体の延長線上にあるもの。生身では無理なことが道具によってできるようになると、人類は他の生き物と一線を画していきました。そして食べ物を加熱調理することによって、他の動物が食べられない「加工」が必要な食材も口にできるようになり、摂れる栄養が飛躍的に増えて、ますます力をつけていったのです。
環境を変える能力を得て、新たな場所でも適応できるようになった人類。祖先たちがアフリカから世界に旅立ってくれたからこそ、私たち日本人も生まれたのですね!

「都市」の生活は昔から変わらない?

今日の私たちの生活様式の多くは、なんと紀元前2500年にはあらかた定まっていたといいます。「都市で暮らす」ということは、生存がさほど困難でなくなったということ。社会の一部の人々は、余暇に時間を割けるようになったのです。
『ウルのスタンダード(紀元前2500年頃)』は、王家のお墓から発掘された謎の箱。台形の薄型で「戦場の旗印(スタンダード)に使えたかも?」と、発掘者が名付けたそうですが、両側面の細かいモザイク画はどう見ても至近距離で鑑賞するもののような気もします。宝石や貝殻など贅沢な材料を広範囲から集め、存分に手間ひまかけた象嵌技術の高さ。外国と広く交易し、職人を養える経済力を持った、やり手の王様だったようです。
モザイク画の片面は『戦争』、他面は『平和』。表裏一体で、「平和」な階級社会の富と力を保つためには「侵略・戦争」が不可欠だったことを物語っています。この構造は、遠い昔のことだけではなく、長らく人類の課題になっていますね。
文明の発達には、 富と余暇は欠かせないもののようです。
今回の100点には入っていませんが、ウルの発掘品には世界最古のゲーム盤(粘土板のルールブック付き!)も。ちなみに今展では、映画『ハリー・ポッター』で有名になった『ルイス島のチェス駒(1150〜1200年)』が展示され、会場にはフォトスポットも用意されていますよ!

他人の痛みを想像する「つながり」の力

『アメリカの選挙バッジ』に象徴される 「短期間のみ意味をもつ」モノ。『サッカー・ユニフォームのコピー商品』が語る、モノの価値。お金以上に思想や感情が反映される『クレジットカード』・・・現代のモノたちの多くは、人の信頼関係や共同作業による「つながり合った世界」の産物ともいえます。個体としては長持ちしなさそうなものも多いのですが、小さくて、生産コストが低い製品が、暮らしを一変させてきました。再生可能なエネルギーの開発も進んでいます。
世界には、電気の届かない地域に暮らす人が12億人もいるそうです。『ソーラーランプと充電器』などの発明品は、貧困や気候変動といった難題に直面したときに、人類が工夫をこらし、成果をあげられることの証であると解説されます。そこにあるモノを、どこでどう使うか。展示を締めくくる『紙の避難所用間仕切り』は、避難所で寝泊まりする人のストレスという「心の痛み」を軽減してくれる作品。私たち人類には、ものを作る能力とともに「他人の立場や痛みを想像できる能力」も与えられているのです。未来の闇を照らすのは「つながり」の力かもしれません。
『銃器で作られた母像』は、過去が人類の「経験」であることを教えてくれます。
『縄文土器』の内側に金が貼ってあるめずらしい一品は、後世の人が茶会の水差しとして使用したようです。また、『アボリジニの編み籠』のように、軽くて丈夫なデザインは現在も受け継がれています。
過去から学び、美意識というものさしで過去とつながる・・・人類ならではのコラボですね!

ルーツを知る旅はまだまだ続く・・・

いまも現在進行形で人類の記憶を刻み続けている博物館。そしてモノは、私たちの死後も残り、いまの世界を将来の世代に伝えていくのですね。
「ものをつくりたい」という本能があるかぎり、これからも人類は進化し、コレクションは増え続けていくことでしょう。私たちもまた、この歴史の流れの一部・・・まだまだ旅の途中です。愛しい子孫たちに自分の持ち物から何か1点残すとしたら? 101点目を選ぶとしたら?
どうぞ楽しいタイムトラベルを。