万葉集でも詠われている花「藤(ふじ)」は、桜とならび日本の美を物語る花木。蔓をのばす低木から薄紫色の蝶形の花が房になって咲くさまは、どこかはかなげでもあり、高貴な風情でもあり、あでやかでもあり……女性の優美な姿にもたとえられています。
一挙にまぶしさを増した陽射しに、新緑がきらめくこのゴールデンウィーク。気分も晴れやかなおでかけ日和に、万葉の昔から人の心をとらえる花の美を追いかけてみませんか。

香りも素晴らしい八重黒龍藤(あしかがフラワーパーク)
香りも素晴らしい八重黒龍藤(あしかがフラワーパーク)

万葉時代に歌語となった「藤浪」。薫風に波のように房を揺らす優美な花

恋しけば形見にせむとわがやどに
植ゑし藤浪今咲きにけり  (山部赤人)
藤浪の花は盛りになりにけり
奈良の都を思ほすや君   (大伴四綱)
藤浪の咲くゆく見ればほととぎす
鳴くべき時に近づきにけり  (田辺福麻呂)
藤の花は、枝から伸びる花穂が長く線状に垂れ下がって咲くのが特徴。その花穂がふさふさとたくさん群がり、風に揺れ、たなびくさまはまるで波のよう…。そんな情景が“浪(なみ)立つ”ように見えるところから、「藤浪(ふじなみ)」という歌語が生まれ、万葉の時代より多くの歌に詠まれました。
紫匂う花が優美に、高貴に咲くたたずまいを、なかなか会えない恋人や、懐かしい都に重ね詠んだのが先の2首。そして3首目は、藤の花が咲く頃に飛来する、初夏の訪れを告げる鳥・ホトトギスを配して詠まれた歌。
“そろそろ田植えをしろ”とうながすように鳴くホトトギス。そして同じころ、たわわに浪のように流麗に咲く藤の花は、万葉の頃から繰り返し巡りゆく日本の美しい季節の情景を描き出すのです。

2014年CNNが選ぶ世界夢の旅行先9か所に選出された「あしかがフラワーパーク」

東京の亀戸天神、奈良の春日大社など、南は九州から北は北海道まで全国には数々の藤の名所があり、4月中旬から5月初旬まで藤まつり(東北や北海道は6月中旬ごろまで)があちらこちらで開かれています。
まさにゴールデンウィークを彩る花として、私たちを楽しませてくれる花・藤。そのなかで、栃木県・足利市にある「あしかがフラワーパーク」は、2014年CNNが選ぶ世界夢の旅行先9カ所のうち1つに選ばれています。ケニヤのキリンが朝食を食べにくるホテル「ジラフ・マナー」やマダガスカルのバオバブの道、フィンランドのオーロラなどと並び、「Dream destinations for 2014」に堂々選出。
~東京から80キロ離れた場所にあり、非日常の世界を体験させてくれる。映画「アバター」に出てくる魂の木にも似た、樹齢143年の藤の木があり、紫色の花が地面まで何層にもわたって咲き誇る~
と、世界に紹介されているのです。
4月中旬~5月中旬まで、うすべに藤、むらさき藤、白藤、黄ばな藤と、色とりどりの藤の花たちがその開花時期を少しずつずらしながら、雅で華麗な絵巻物語を奏であげる「あしかがフラワーパーク」。いままさに絢爛たる見ごろを迎えています。

4月中旬から5月中旬の1ヵ月間は「ふじのはな物語~大藤まつり2015~」

4月中旬から開幕している「ふじのはな物語~大藤まつり2015~」は、まさにこの世のものとは思えない花の絶景を鑑賞しに訪れる人々で賑わう1カ月。
栃木県天然記念物に指定されている樹齢150年におよぶ1000㎡の広さの大藤棚と、香りも極上な八重咲きの大藤と、古木がからみあってできた80mに及ぶ白藤のトンネル。
さらに、花房が1.8mにも成長する野田の長藤、日本では栽培が難しいと言われている黄ばな藤のトンネル、スクリーン仕立ての藤など、350本以上の藤の花を5000本以上のツツジが鮮やかに縁どり、あたり一面、目にするものすべてが圧巻です。
中央の池を囲むように藤の大浪があちらこちら打ち寄せる92,000㎡もの広大な園内は、ライトアップされる夜はまた趣が一変。水鏡効果もドラマティックな夢幻の世界が目の前に広がります。
園内をそぞろ歩き、あたりに満ちる藤の香りに包まれれば、この世の楽園へ迷い込んだよう。
ひとしお人の心を動かすゆかしき花を訪ねに、ひときわ艶やかな日本の美を愛でに、足を伸ばしてみませんか。

※参考/「あしかがフラワーパーク」HPでは、花の開花状況等を随時公開中。チェックしておでかけください。
http://www.ashikaga.co.jp/index.html
※参考文献/万葉植物事典 万葉植物を読む(北隆館)