作家の室井佑月氏が原発推進派の意見にこういう。

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 9月11日の共同通信のニュースによると、

「2011年の東日本大震災の直後、日本に派遣された国連チームが作成した報告書で、東京電力福島第1原発の事故を『コントロール(制御)できていない』と記述したことに対し、外務省側が『表現が強すぎるのではないか』と非公式に抗議していたことが10日、分かった」

 こういうクレームってどうよ? 言い方を変えてもらったって、なんら事実が変わるわけじゃない。しかも姑息に非公式でのお願い。恥ずかしいったらない。

 そういえば、2011年12月の東京新聞に「原発用語言い換え危険な印象消す?」という記事が載っていて、以前あたしもこのコラムで取り上げた。もう一度、載せる。

「福島第一原発事故をめぐる政府や東京電力の記者会見では、しばしば珍妙な用語が飛び出す。『事故』と言えばいいのに『事象』が使われる。『老朽化』は『高経年化』、『汚染水』は『滞留水』に。『危険性を隠したがる原子力界の潜在意識の表れだ』」

 言葉の言い換えで印象操作をするのって、この国では常套手段。さすがに海外ではあかんのか。

「(放射能は)ただちに影響はありません」

 たしかそれを言ったのは、民主党の枝野元官房長官だったっけ。でもそれって言い換えれば、「影響は今後くるかもだけどさ」、そんなところ。いちいち変換して考えるのが面倒臭いわ。

 ま、そんなことはどうでもいい。9月8日の時事通信のニュースでは、福島第一原発の港湾内に、今年5月までの10カ月間に出たストロンチウム90とセシウム137が計約2兆ベクレルに上るという。東京電力の資料などでわかった。

 けれど、安倍さんも小渕さんも汚染水はコントロールされている、と言い張る。2兆ベクレルの放射性物質は絶対に港湾内にあると信じていいのだな? それにしても、事故後ではなく、直近の10カ月で2兆ベクレルも漏れているとは。以前はもっと漏れてなかった? 国も東電も国民に危険だと絶対に言わないけれど。

 だとすれば、福島第一原発のレベル7の事故もじつは大したことなくて、放射性物質も危険ではないということなのか? 福島の子どもに甲状腺がんが尋常じゃなく増えているけど、「原発事故による被曝の影響とは考えにくい」と言い張るしな。

 じゃ、原発推進派の人たちはどうして堂々と、「海外では大変だと言われたりするみたいですけど、この国では、レベル7の事故も、放射能被曝も、まったく問題ないんです」って言わないんだろ。言ってみりゃいいのに。

 きっと今海外で批判されている、高市早苗総務大臣や稲田朋美自民党政調会長の、ネオナチ団体の代表とのツーショット写真問題も、一瞬で吹っ飛ぶぞ。

 戦略として、菅さんちょっとやってみて。あなたならできそう。

週刊朝日 2014年10月3日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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