ザ・シーン・チェンジズ+1
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ザ・シーン・チェンジズ+1

 ベテラン・ジャズファン編の2回目です。長くジャズを聴いているファンはいったいジャズのどこに惹かれるのか? ジャズから何を聴き取っているのか? お答えいたしましょう。それは「音」なのです。
 
 音楽なのだから音を聴くのは当たり前、ですか? そうでもないんじゃないでしょうか。私自身、ジャズを聴き始めたばかりの頃は聴き所がサッパリわからず往生したものですが、そんな入門ファンでもわかるのが、メロディです。
 
 有名な「クレオパトラの夢」が好まれるのも、メロディが聴き取りやすく、そして日本人の感受性にフィットしているからです。決してバド・パウエルの深い音楽性が理解されたというわけではありません。
 というか、おおむね私たちは音楽を旋律として捉えているようです。ですが、世界中の人たちが同じように捉えているとは限りません。旋律と同時にハーモニィを聴き取るのが上手なヨーロッパ人は、街のオジサン、オバサンたちのコーラスでもフツーにハモっちゃったりしますが、私たちはけっこうユニゾンだったり・・・

 それはさておき、ジャズでもっとも重要な要素はリズムということはご存知ですよね。私たちがジャズの曲目に惹かれるのも、実はジャズならではの小気味良いリズムに乗って魅力的なメロディが演奏されるからです。
 「クレオパトラの夢」だって、上手いだけのミュージシャンが演奏しても「いまいち」なのは、パウエルならではのちょっと重いリズム感が出せないからではないでしょうか。つまり、無意識のレベルでは、私たちもちゃんとリズムが「隠し味」的に大事な要素だということは体感しているのです。
 まあ、この辺りまではちょっとジャズを齧った方なら「そんなこと知ってます」の範囲ですよね。しかしまだまだ奥があるのです。

 それは「楽器の音」です。これも初心者にはわかりにくい。早い話、私自身がテナー・サックスとアルト・サックスの聴きわけが完全に出来るようになるまで、けっこう時間がかかったものです。ですから、ジャズ入門者がサックスとトランペットの区別が出来ないと聞いても、驚きはいたしません。
 さて、それではベテラン・ジャズファンが聴き取っている「楽器の音」とは何か? それは、それぞれ個性的なジャズマン固有の「音色」なのです。パウエルの『クレオパトラの夢』にしても、初心のうちはあの哀愁を帯びた旋律の魅力に惹きつけられ、次第にその旋律が乗っているリズムの味わいに気付き、そしてベテランともなると、それらメロディ、リズムの「素材」となっている「パウエルならでの深いピアノの音色」の虜となるのです。そして、そこまで行っちゃったファンは完全な「ジャズ中毒患者」となっていて、決してジャズファンから「落ちたり」しなくなるものです。[次回10月21日(月)更新予定]