第14回 ジミ・ヘンドリックス《リトル・ウィング》~とりわけ素晴らしいこの1曲 |AERA dot. (アエラドット)

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第14回 ジミ・ヘンドリックス《リトル・ウィング》~とりわけ素晴らしいこの1曲

文・大友博

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 1966年秋、ロンドンに渡ったジミ・ヘンドリックスは、同年暮れから翌67春にかけて《ヘイ・ジョー》、《パープル・ヘイズ》、《ザ・ウィンド・クライズ・メアリー》と3枚のシングルでその存在をアピールしたあと、5月半ば、最初のアルバム『アー・ユー・エクスペリエンスト』をイギリスで発表している。ちなみに、当時は珍しいことではなかったのだが、《フォクシィ・レディ》で幕を開け、《アー・ユー・エクスペリエンスト?》で締めくくられるそのアルバムに、これらの3曲は収められていない。

 このあと、アメリカでの本格的なデビュー・ライヴとなったモンタレイ・ポップ・フェスティヴァルでの伝説的なパフォーマンスがあり(ポール・マッカートニーやブライアン・ジョーンズらが強力に彼をバックアップした)、ようやく8月半ばになって本国での発売が実現している。しかし、これもまた当時としては珍しくはなかったことなのだが、逆にシングルの3曲を生かすため、作品として練り上げたはずの曲構成のなかから3曲が外されてしまう。しかもそのなかには、オリジナル・ブルースの《レッド・ハウス》が含まれていたのだ。ブルースマンとしてのジミよりも、モンタレイで多くのオーディエンスに衝撃を与えたワイルドなブラック・ロッカーとして彼を打ち出したいという狙いが周囲の人たちにはあったのかもしれない。

 そのあとすぐスタジオ作業を開始し、ライヴを重ねながら並行して完成させたセカンド・アルバム『アクシス : ボールド・アズ・ラヴ』(67年暮れ発表)に関しては、そういった混乱や改ざんはなかった。状況が大きく変わったということだろう。クレジット上はチャス・チャンドラーがプロデューサーとなっているが、ここでジミは創作面でのほぼ全権を握り、エンジニアのエディ・クレイマーとともに、革新的で、しかもきわめて奥の深い音の世界をつくり上げている。実質的にはこれを、アーティスト=ジミ・ヘンドリックスのデビュー作品とみるべきではないだろうか。

 SF好きの一面を大胆に示した冒頭の《EXP》《アップ・フロム・ザ・スカイ》、故郷シアトルの実在のクラブをテーマにした《スパニッシュ・キャッスル・マジック》、インヤンのあの図柄が浮かび上がってくる《イフ・6・ワズ・9》など、ソングライターとして確実になにか大きなものをつかんだのだということを示す曲が並んでいて、これはあくまでも個人的な意見だが、とりわけ《リトル・ウィング》が素晴らしい。巨匠ギル・エヴァンスをも惹きつけた曲構成、ネイティヴ・アメリカンの神話や伝説ともつながるものと思われる美しい歌詞、そしてカーティス・メイフィールドからの影響を感じさせるコード・ワーク。そして、繊細なタッチのソロ。わずか2分20秒ほどで終わってしまうことを残念に思いながら、これまで何度、聴き返してきたことだろう。

 25歳の誕生日直前のジミを記録したこの曲を、エリック・クラプトンはデレク&ザ・ドミノスの『レイラ・アンド・アザー・アソーテッド・ラヴ・ソングズ』で取り上げている。彼とドゥエイン・オールマンのギターが優しく、そして力強く絡みあうこのテイクを聞かせようと思っていたはずのジミは、しかし、発表を前に他界してしまう。結果的に、不思議な因縁を感じさせるトリビュートとなってしまったわけだ。

 再来などと呼ばれることも多かったスティーヴィー・レイ・ヴォーンは、やはり約2分20秒という尺に物足りなさを感じていたのか、7分近いインストゥルメンタル・ヴァージョンを残している。きわめてオリジナルに忠実で、そのうえで、ジミが弾いていたはずのフレーズを再現しているといった印象だ。スティングの『…ナッシング・ライク・ザ・サン』に収められた、ギル・エヴァンス・オーケストラとのヴァージョンも忘れられない。ギルとジミは共演の可能性があったといわれているが、そこではハイラム・ブロックが、その「IF」を現実のものとすることを意図したような、密度の高いソロを弾いている。[次回6/12(月)更新予定]


(更新 2017.6. 5 )


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プロフィール

大友 博 (おおともひろし)

1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。

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