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第1197回 夕食時にはそわそわお嬢さん
「甘食」をご存じでしょうか。円盤の形をした小さなパンです。ファー(写真、メインクーンの雌)はこれが好きで、彼女の朝は甘食で始まります。 互いの仕事の関係で離れて暮らしていたときに、夫が相棒として迎えたのがファーでした。「毛足が長くて大きくなる猫」が夫の希望だったのです。 わたしは5年前にようやく一緒に暮らすようになったので直接は知りませんが、子猫のころのファーは、とんでもないやんちゃ娘だったそうです。カーテンに跳びついてビリビリに引き裂く、買い物袋の中に頭を突っ込み、パックを取り出して肉にかぶりつく──理想の猫とはいえ、夫はほとほと手を焼いたのでした。 しかし、たまに会うわたしの目には、もの静かな猫にしか見えませんでした。というのも、ファーには「ニャア」がないのです。これまで一緒に暮らした猫たちは、何かしら鳴いたものですが、普段、彼女は一切声をたてません。 彼女が一変するのは食べ物を前にしたときです。 主食のドライフードに加え、夕方6時にはレトルトのフードを用意します。ファーはこれが大好物。彼女の体内時計はよほど正確なのでしょう。夕食時にはもうそわそわ、台所に立つわたしの足元をうろちょろし始めます。 準備が遅れようものなら、こちらの顔を見て立て続けに文句を言います。それも、甲高い声ではなく、ハスキーなかそけき声で。 お待ちかねの器にかがんで一心に口を動かしているファーからは、ゴロゴロと満足げな音が響いてきます。 よく食べ、よく寝て、今や体重8キロにまで成長したファー。食いしん坊なお嬢さんも9歳になりました。最近は寝息どころか、豪快ないびきをかくこともしばしばです。

