第76回『ライヴ・アット・サムデイ・イン・東京』ボビー・ワトソン
『ライヴ・アット・サムデイ・イン・東京』ボビー・ワトソン
1999年に来日したミュージシャンの参加作は12作、前年からさらに2作減った。スタジオ録音は3作あって、いずれも日本人との共演で1作が和ジャズだ。ライヴ録音は9作あって、4作が日本人との共演で3作が和ジャズだ。候補6作からボビー・ワトソン(アルトサックス/作編曲)率いるビッグバンドの『ライヴ・アット・サムデイ・イン・東京』を取り上げる。選外作はデータ欄の【1999年 選外リスト】をご覧ください。
1977年に「アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ」の奏者/音楽監督に迎えられ名を上げたワトソンは在団中の1979年に初来日した。1981年の退団後も「マウント・フジ・ジャズ・フェスティヴァル」(87年~89年)、「ニューポート・ジャズ・フェスティヴァル・イン・斑尾」(92年、94年)、クラブ出演などで訪れ、2010年までの来日数は10度を超える。半数ほどは「メッセンジャーズ」がらみだ。
1980年代から90年代、ワトソンは編成も方向性も異なる4グループを組織する。推薦盤のリーダー名にある「テーラーメイド」は17人編成のビッグバンドで、推薦盤はワトソンの旧友である「サムデイ」の店主、森茂信氏の肝煎りで実現した再現の記録だ。ワトソンが率いるのは森氏がトップクラスのジャズメンを集めて1996年に立ち上げた「東京リーダーズ・ビッグバンド」で、我がジャズ界を代表する錚々たる面々が居並ぶ。
公演に先立って周到な準備がなされた。その2カ月前に森氏が渡米、12曲を選曲してスコアを持ち帰り、バンド単独で数度のリハを重ねたとある。推薦盤の収録曲で、唯一の先行盤『テーラーメイド』(Columbia/1992)と重複するのは《ミス・B.C.》だけだ。
《デュアル・カンヴァセイション》は速めのミディアムで。「夜遅く、みんなが飲み、楽しい時を過ごし、おしゃべりしてる」とワトソンが解説するように、トランペット隊に2トロンボーンにアルトなど、いろんな会話が交錯する楽しいアンサンブル・ワークだ。
ベティ・カーター(ヴォーカル)に捧げた《ミス・B.C.》はファストで。格好いいテーマのあと、頸動脈怒張のワトソン、端正なトランペット、うねうね激走するテナー、きらめくピアノが続き、テーマで終える。ワトソンとテナーが傑出、鳥肌ものの熱演だ。
《カリタ》は速めのミディアムで。耳馴染みのいいテーマ、伸びやかなトロンボーン、熱情迸るアルト、クールに気を吐くトランペット、そよ吹くフルート、燃盛るワトソン、テーマと続く。トロンボーンとワトソンが光る。17分を飽かせない心地よい聴き物だ。
《ロング・ウェイ・ホーム》はワトソンを全面にフィーチャー。まずはフリーテンポでカデンツァを一しきり、スロウに転じるや実にエモーショナルに歌い上げて遺憾がない。
《アンフォールド》はファストで。ホーンのチェイス大会だ。賑やかなテーマ、トロンボーン、2トロンボーンの8バース→4バース→同時即興、4トランペットの8バース→4バース→2バース→集団即興、2テナー|2アルト|バリトン&アルトの16バース→2テナー&2アルトの8バース→集団即興、テーマと続く。渾身の熱演、当夜の白眉だ。
《イン・ケース・ユー・ミスド・イット》はファストで。イントロ、これまた格好いいテーマ、茫洋たるトロンボーン、熱く駆けるワトソン、小気味よく弾けるピアノ、合奏、阿鼻叫喚の集団即興、ワトソンのメンバー紹介、合奏と続き、狂喜の公演は幕を下ろす。
いずれ劣らぬ腕っこきたちが事前にリハを重ねていたとあってまとまりは申し分ない。音質はさておき、同店の狭さが効いて迫力と生々しさはピカ一だ。パワフルでマッシヴ、ビッグバンドの醍醐味が満喫できる。惜しむらくは達者なソロイストたちのクレジットがないことだ。筆者にも特定できる方もあればできない方もある。完璧は期せず見送った。再現とはいえ『テーラーメイド』ともどもワトソンの才とバンドの威容が伝わる名盤だ。
【1999年 選外リスト】fine>good>so-so>poor
The Live at the Keynote/Eric Alexander (Video Arts/March 4-5) good+
Golden Earrings/Dusko Goykovich (Paddle Wheel/June 5) good+
Solo Piano: Originals/Chick Corea (Stretch/November 28,30) good+, *1
Solo Piano: Standards/Chick Corea (Stretch/November 28,30) good~, *2
Trio→Live/Pat Metheny (Warner Bros./December) *3
*1: compi (1999), 6/13 on the date, 7/13 in Europe.
*2: compi (1999), 7/13 on the date, 6/13 in Europe.
*3: compi (1999-2000), date and location (Europe/Japan/US) unidentified.
※コンピの評価は当該演奏のみ。
【収録曲】
1. Dual Conversation 2. Ms. B.C. 3. Karita 4. Long Way Home 5. Unfold 6. In Case You Missed It
Bobby Watson (as, ldr), Shiro Sasaki, Mitsukuni Kohata, Keiji Matsushima, Yoshiro Okazaki (tp), Hideaki Nakaji, Haruki Sato, Masahiko Kitahara (tb), Masaki Domoto (btb, tu), Seiji Tada, Atsushi Ikeda (as), Tatsuya Sato (ts), Kose Kikuchi (ts, fl), Atsushi Tsuzurano (bs), Masaaki Imaizumi (p), Koichi Osamu (b), Tappy Iwase (ds on Feb 11), Yoshinobu Inagaki (ds, Feb 13).
Recorded at "Someday", Tokyo, on February 11 & 13, 1999.
【リリース情報】
2000 CD Live at "Someday" in Tokyo/Bobby Watson & Tailor Made with Tokyo Leaders Big Band (It-Red)
※このコンテンツはjazz streetからの継続になります。
2017/08/28 00:00