わたしを離さないで(写真提供:TBS)
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 今期の作品で一つどうしても書いておきたいことがある。それは、「わたしを離さないで」をめぐるメディアと視聴者の反応。「ノーベル賞候補」と言われるカズオ・イシグロの原作に、TBSのエース脚本家・森下佳子、そして綾瀬はるか、三浦春馬、水川あさみのキャストをそろえた万全の布陣……のはずだったが、序盤の視聴率は今期最低。それを見たメディアは一斉に「暗い」「重い」と酷評を並べ、すぐに一般層へ波及し、失敗作の印象が広がっている。「臓器提供」「クローン」というシリアスな題材が裏目に出たのか。それとも人体焼却や児童洗脳教育などのショッキングな描写が拒否反応を誘ったのか。そんなシーン以上に目も当てられない低視聴率と厳しい声に悩まされているのだ。

 しかし、当作が伝えたいのは「臓器提供」「クローン」ではなく、過酷な状況のなかで愛や絆を育もうとする人間の姿。運命を知って絶望しながらも、恋に救いを見出し、希望を手にしようともがくヒロインたちの姿を丁寧に描いている。大河ドラマですら子役を使わない時代に、2話まで子役メインの展開を貫く姿勢も含め、当作から漂うのはむしろ名作の香り。現在のメディアも視聴者も「シリアスな作品は共感者ではなく、傍観者の立場から楽しむ」という視聴スタイルを忘れてしまったのかもしれない。

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