本書は、オランダの中学生物教科書の邦訳版だ。退屈なはずの教科書なのに、常識を覆す一冊だ。薬物中毒やウイルス感染症、避妊などについて大きく扱っており、日本の中学教科書とは大違いである。コンドームの着け方がイラストで紹介されていたのには驚いた。

 踏み込んだ表現をすれば、生物の教科書というより「若者の命を守る危機管理の本」だ。巻末の「さくいん」では、日本の高校の生物や保健で学ばない用語に下線がつけられている。これを見れば、日本の教科書には「ヒト」が抜けているということがわかる。

 新型コロナの感染拡大は、各国の国民性や課題を浮き彫りにした。日本では10代の妊娠も増えているときく。オランダの若者が学ぶ「ヒト」の科学が詰まった生物学の本書は、日本における「新しい生活様式」の羅針盤ともなる一冊だ。
(吉村博光)

週刊朝日  2020年10月16日号