京都で臨床心理学の博士号を取得した著者が、沖縄の精神科クリニックで働いた経験を綴り、そこから見えてきたケアやセラピーの問題に光を当てる。

 著者は2010年から4年間、慢性期の統合失調症、躁うつ病、発達障害、パーソナリティー障害などの人々がリハビリのために集まって一日を過ごすデイケア施設で働いた。その中で「ただそこに居る」ことの困難さに気づく。そして通所者と接する中で、ビジネスでは常に消費者のニーズを満たそうとするのに対し、心の問題では安易に満たされるべきではないニーズがあることを実感する。

「ケアとは傷つけないこと」「セラピーとは傷つきに向き合うこと」との言葉も鋭い。医療問題はじめ、ケアしたりされたりしながら生きることを考えるための良書である。(三宅香帆)

週刊朝日  2019年4月26日号