大衆酒場を巡った40編のエッセイ集。そう聞くと、目新しさはなさそうだが、驚くなかれ。名店と呼ばれる飲み屋も訪れているが、著者の自宅の練馬区からアクセスがよいところが目立つ。自宅近くの和風スナックから板橋区の定食屋、池袋の24時間営業の酒場など。自分が行きやすく、飲みたいところを取り上げる斬新なスタイルだ。

 読みながら「行ってみたい」とは思わせるが、本書は決して飲み屋の紹介ではない。実際、経営者がすでに代わっていたり、閉店したりしている店もある。著者は赴くままに店を訪れながら、酒場という空間が持つ普遍性をうまく切り出し、読み手を未知の酒場に誘う。

 家や職場の近くに入りたくても少し入りづらい店があるはず。ちょっと行ってみようかな。そんな前向きな気持ちにさせてくれる。

週刊朝日  2018年6月15日号