10年後、新聞はどうなっているだろう。今のままか、違う形態になっているか、それとも消滅しているか。
 本城雅人の長編小説『紙の城』は、IT企業による新聞社買収を描く。200万部の全国紙を発行する東洋新聞が、新興のIT企業に買収されようとしている。社会部デスクの安芸稔彦は、同僚たちと買収阻止に向けて動く。タイムリミットは2週間。はたして買収を止められるのか……。
 本作はエンターテインメントとして成功しているだけでない。登場人物たちによる議論には、新聞の現在と未来について考えさせられる。
 たとえばIT企業の会長は「今の新聞はコストがかかり過ぎています」と言い、宅配制度、記者の数、経費の使い方、広告のアプローチ方法など、すべてを見直せと迫る。
 若手記者は「新聞は公正中立だと言いますけど、実際は国家の代弁者です。国内問題では政権に真っ向から対立もしますが、外交問題になれば国策にマイナスになるようなことは書かないですし」と発言する。そのほか、記者クラブ制度や新聞社間の協定、さらには軽減税率のことなど、新聞には載りそうにないことが書かれている。
 だからといって、新聞に未来はないと主張しているわけではない。それどころかこの小説は、新聞が持っている潜在的な力と未来への可能性をたくさん示している。たとえばある登場人物は、新聞が本腰を入れてポータルサイトの運営に乗り出していたら、IT企業はここまで成長できなかっただろうと語る。
 何を残し、何を捨て、何を変えていくのか。新聞はいま決断を迫られている。

週刊朝日 2016年12月16日号