日の鳥 2

話題の新刊

2016/08/12 11:04

「妻よ」と呼びかけながら、東日本の地を尋ね回る一羽の雄鶏の物語。『夕凪の街 桜の国』の漫画家の最新作だ。
 1ページに繊細なスケッチ1枚と雄鶏のつぶやきが載る。消えた妻を捜し、3年、4年をかけ2度、3度と大震災の被災地を訪れる。夏草が茂る線路や「釜石市役所」のステッカーが貼られた元ピザ屋のバイクなど、何気ない「日常」が切り取られる。フーテンの寅さんを思わす雄鶏のキャラが、とぼけた面白みに哀歓を醸し出す。「妻」は巨体で、怒らせると怖い存在でもあるらしい。明言はないが、原子の力を宿した金色の怪鳥を想像させるのが著者のすごいところだ。
 外在者の眼による定点観測の手法は新鮮で、こうした「あの日」の伝承の仕方もあるのかと驚かされる。続けてほしいし、読み続けてもいきたい。

週刊朝日 2016年8月19日号

日の鳥 2

こうの史代著

amazon
日の鳥 2

あわせて読みたい

  • “夏草や 兵どもが 夢の跡”。芭蕉の足跡をたずねて、新緑まぶしい世界遺産・平泉へ

    “夏草や 兵どもが 夢の跡”。芭蕉の足跡をたずねて、新緑まぶしい世界遺産・平泉へ

    tenki.jp

    5/12

    愛が重すぎて…SAでフェンス撤去 新聞に載ったB級ニュースたち

    愛が重すぎて…SAでフェンス撤去 新聞に載ったB級ニュースたち

    AERA

    9/29

  • 若冲や雪舟らの名作 背景にある「つながり」を解き明かす展示

    若冲や雪舟らの名作 背景にある「つながり」を解き明かす展示

    AERA

    5/27

    愛しく大切にするべき動物の命、なのに「おいしい!」と食べてしまう矛盾

    愛しく大切にするべき動物の命、なのに「おいしい!」と食べてしまう矛盾

    AERA

    2/12

  • シャンソンのレジェンドが来日 日本の震災に「語りすぎてはいけない」

    シャンソンのレジェンドが来日 日本の震災に「語りすぎてはいけない」

    AERA

    4/9

別の視点で考える

特集をすべて見る

この人と一緒に考える

コラムをすべて見る

カテゴリから探す