香港パク

話題の新刊

2015/11/26 13:02

 韓国人作家・李承雨による短編集。
 表題作の「香港パク」には、正体のつかめない不思議な男が一人登場する。彼の名はパク・ホンダル。口癖のように「香港から船さえ入港すれば」一儲けできると法螺を吹き、会社の同僚からは香港パクと呼ばれることとなる。同僚たちは暇さえできれば「気の狂った」彼を話題に出しあざ笑っていたが、「私」にはわかっていた。実は皆も今のつらい現実から逃がしてくれる香港からの船を待っているということを。
 他にも、4千年前に建てられた迷宮をめぐって四つの推測が示される「迷宮についての推測」、部族の人々が「近いうちに陽が昇らなくなるだろう」という出所の知れぬデマに惑わされ、狂気に走る様子が描かれる「太陽はどのように昇るのだろうか」など、本書には事実を欠いた嘘、噂といった作り話がたくさん登場する。
 著者はこのような一見無視されがちな想像力の産物に目を当てる。虚構には現実を救う力も、狂わせる力もある。虚構に潜む神秘な魅力に迫った8編が収録されている。

週刊朝日 2015年12月4日号

香港パク

李承雨著/金順姫訳

amazon
香港パク

あわせて読みたい

  • 香港版「治安維持法」で“戦意喪失”の若者も 英豪台へ「もう移住するしかない」

    香港版「治安維持法」で“戦意喪失”の若者も 英豪台へ「もう移住するしかない」

    AERA

    6/11

    香港寿司王が一夜で人気店築いた“初競りマグロ劇場”

    香港寿司王が一夜で人気店築いた“初競りマグロ劇場”

    AERA

    1/24

  • 香港学生デモ現地ルポ 占拠された街

    香港学生デモ現地ルポ 占拠された街

    週刊朝日

    10/8

    香港から途絶えたメール、消えたSNS投稿…失われた自由の陰で「中国支持」の意外な壁

    香港から途絶えたメール、消えたSNS投稿…失われた自由の陰で「中国支持」の意外な壁

    AERA

    7/16

  • 野蛮なアリスさん

    野蛮なアリスさん

    週刊朝日

    4/25

別の視点で考える

特集をすべて見る

この人と一緒に考える

コラムをすべて見る

カテゴリから探す