約1年前、2014年4月の「美味しんぼ問題」を覚えておられるだろうか。「ビッグコミックスピリッツ」に掲載された『美味しんぼ 福島の真実編』において主人公の山岡が鼻血を出すなどの描写が物議をかもし、ネット言論からマスメディア、自治体、環境省までマンガの内容を否定した、あの事件である。
 雁屋哲『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』はこの事件を受け、『美味しんぼ』の原作者自らが世間の攻撃に敢然と反論した本である。
〈それは、非難とか批判というものではなく、『美味しんぼ』という作品と私という人間を否定する攻撃だったと思います〉と著者は当時をふりかえる。本書の主眼はしかし、作品では描ききれなかった「福島の真実」を伝えている点だ。
 実際、本書の報告する福島の現状は私たちの予想をはるかに超えている。放射能汚染によって出漁や魚介の出荷が禁止され、機能停止に陥った漁港。有機農法に取り組んできたにもかかわらず、米の味を落としてもセシウムを吸収するゼオライトを土壌に入れるか農業をやめるかの選択を迫られる農家。依然として空間線量の高い町。住民を安心させるために防護服もマスクも着用しない自治体職員。そして福島第一原発の敷地内で見た、あまりに安易な作りの汚染水タンクと地下貯水槽。
〈福島の真実を語ることはタブーになっている〉と著者はいう。2013年のIOC総会で首相は「福島原発の汚染水はブロックできている」と語ったが、〈こんな嘘は「風評」どころではないでしょう。/それとも、福島について嘘でも安全だといえば、マスコミはそんな嘘を「風評被害」ではなく、「風評利益」として褒めたたえるのでしょうか〉。
『美味しんぼ』問題で見えた利権の構造。〈私は彼らを「ゲ集団」と呼ぶことにしました。/「ゲ集団」の「ゲ」は「原子力産業利権集団」の「ゲ」です〉。「ゲ集団」に疑問を持つ人、「風評被害」という言葉に怒っている人は必読だ。

週刊朝日 2015年4月17日号