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木霊草霊
話題の新刊
2014/07/31 15:55
荒涼の街外れを転々。西部劇で見慣れたあのドデカイ鳥の巣状の塊をずっと干し草の残骸と思っていたが、大間違い。タンブルウィードなる歴とした植物で、しかも根を離れた虚しい枯死体には非ず。風に次世代を託し播種に利する、存亡をかけた果敢な転々であったことを本書は教える。
気が遠くなるほどの歳月を永らえて、なお子孫を増やすセコイアの巨木。嫌われながらも異土にはびこる帰化植物のしたたかさ。あるいは桜や椿、葛について。在米詩人による、日米往還の日々や渡欧の旅先での植物の生き方にまつわる気づきと考察の一冊である。
子供時代以来の植物マニアだ。記述は学名、原産地、分類上の登録抹消・変更などにも及び情報に富む。だが、それ以上に厳かな読後感が感動的だ。
オリジナルは月刊誌の連載(2012年4月~13年11月)。この期間は、熊本に住む老父の看取りと重なっている。遠距離介護に荒ぶる心を鎮めるかのように草木の魂と交信しつつ生と死をめぐる内省を重ねた著者の姿を思う。
※週刊朝日 2014年8月8日号
木霊草霊
伊藤比呂美著


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