書評『雨のなまえ』窪美澄著 |AERA dot. (アエラドット)

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《話題の新刊 (週刊朝日)》

雨のなまえ 窪美澄著

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トミヤマユキコ#話題の新刊

 この短編小説集に登場するのは、地味で平凡だけれど、ときどき小さな幸せが訪れる人生を願っているような人々ばかりだ。しかし、そんな慎ましい人々にも試練の時は訪れる。愛にまつわる、甘く苦しい試練が。
 「記録的短時間大雨情報」の女主人公は、自宅で義母と暮らし始めたばかりの主婦だ。同居は突然のことであり、彼女の本意ではないが、すでに夫婦関係は冷め切っており、夫の協力は期待できそうにない。少しボケがはじまっていて盗癖もある義母の世話をしながらスーパーで働くうち、学生バイトの男の子に恋をしてしまった彼女を誰が責められるだろう。妻、母、嫁。誰かにとっての自分でしかない人生から目を逸らしたい……やるせない思いを責めているのか、慰撫しているのか、物語の中で雨はどんどん強くなり、激しさを増していく。収録された5つの作品全てに雨のシーンが登場する。渇きを癒やす雨、全てを奪いさる雨。ページの向こう側から聞こえてくる雨音にそっと耳を澄ませ「雨のなまえ」を考えるのは、わたしたち読者の仕事なのかもしれない。

週刊朝日 2013年12月13日号


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