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旅立つ理由
話題の新刊
2013/06/05 15:39
ザンジバル、モロッコ、ブラジル、メキシコ、キューバ、ウガンダ……。光彩を放つ土地を舞台に、さまざまな国に暮らしながら文章を紡いできた作家が、21篇の紀行小説を著した。登場する日本人は「彼」ひとりのみ。異国情緒がゆたかに香り立つ。
主人公の「彼」は、ミケランジェロを見に行きたがる小学生の息子の願いを叶えてやろうとする優しい父親だ。イタリアで別行動をとった隙に、息子の描いた絵が広場で売れると喝采し、男同士の祝杯をあげに行く。ところが読み進むにつれ、「彼」の人生には婚姻と離別があり、息子にはアフリカの血が流れ、のちにその息子とも別れてしまい、「ダン」と呼ばれていることがわかってくる。
軍警察が来て、あわれな報酬金額をのまざるを得なかった大道芸人に対する温かいまなざしもあるが、何よりも「彼」の父性が光る。ナイロビにいる妻が出産したとの知らせを受け、しばらくの放浪ののち、発作的に、過去よりも現在が激しく息づいているところへ行きたいと翌日、航空券を買うのだ。人々の笑いが聞こえる至福の読書。
週刊朝日 2013年6月14日号
旅立つ理由
旦敬介著


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