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田中角栄
2012/11/21 16:20
私は昔、旧新潟3区に住んでいて、角さんが総理になった時の大騒ぎも、ロッキードで逮捕された時に悄然となっていたのも記憶にある。そして角栄といえば日本でもっとも知名度のある政治家の一人である。にもかかわらず角さんの来歴とかほとんど知らなかった。高等小学校卒業、土建屋、越山会の女王。あとは目白と砂防会館と池の鯉と「よっしゃよっしゃ」。知っているのはそれくらい。
この本を読んで初めて角さんの歩んだ道を詳しく知ったのだが、読みおわって断片的に知っていたことでほぼ充分ではないかと感じた。角さんという人は、愛嬌があり、頭の回転が速く、教養や知識に欠け、雑で単純で、欲望が強い。まさに、昔からの角さんのイメージそのもの。それを覆すエッと驚くような新事実などはない。ああやっぱりそうだったのか、と断片的知識がまとまってガッチリ固まっていく。
イギリス訪問をした角さんがエリザベス女王と競馬談議をした、というエピソードなど読むと、いったい女王陛下と話したのは血統の話なのか、レース展開の話なのか、競走体系の話なのかが気になるが、そんなことは書いていない。そこを書かずしてどうすると競馬好きの私は思うが、「田中角栄という人の魅力」みたいなものは伝わってくる。悪いことをしたとされる人でも、その人生を描くとたいがい人間的魅力が出てくるが、この本もそれの一種だろう。実際にそばにいたら面白い人だったと思うし、顔は私の好みだし、好きになってた可能性は高い。しかしそういう話はやがて「今の政治家はダメ、昔はよかった」とかいう方向に向かってしまってよくない。
この本で何を訴えたかったのか。そのへんがいまひとつわからないのだが、番記者として角さんのそばにいた著者が、その時の良きにつけ悪しきにつけ、どきどきわくわくした気持ちを記録しておきたい、という感じなのかな。露骨な角さん礼賛本になってないし、それもまたいいと思える本です。
週刊朝日 2012年11月30日号
田中角栄
早野透著


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