石炭をイメージしたフレンチ料理が楽しめる 平成筑豊鉄道 「ことこと列車」
連載66 櫻井 寛のぞっこん鉄道 麗しき名列車

筑豊の田園地帯をコトコト走る平成筑豊鉄道の新鋭「ことこと列車」。菜の花は満開にして、背後の筑豊の山並みは春霞という、いかにも春のうららかな風景の中、レッドメタリックの車体がまぶしい。ローカル線だからこそより華やかにという水戸岡デザイナーの色彩感覚が光る。数多い赤い列車の中でも最もあでやかな赤ではないだろうか。田川線豊津駅─今川河童駅間で ■オリンパスOM-D E-M1 MarkII・40~150ミリ F2.8+TC1.4・絞りf8・ISO800・AE・マイナス0.3補正・JPEGスーパーファイン
【「ことこと列車」一番列車出発式の写真はコチラ】
平成筑豊鉄道は、国鉄時代に赤字のため廃止対象となった福岡県筑豊地方の伊田線、糸田線、田川線の3路線を継承した第3セクター鉄道である。発足は1989年、つまり平成元年だったことから平成筑豊鉄道と名付けられたわけだが、奇しくも開業から30年の今年、平成最後の年に、同鉄道初の新型観光列車がデビューしたのである。
JR九州では多数の観光列車を運行しているが、筑豊は空白地帯だった。実は私はずいぶん前から、筑豊地方に観光列車があったらいいなと思っていた。実際に、JR九州に提案したこともある。ルートとしては門司港駅を起点に、日田彦山線を経由して夜明駅で久大本線に乗り入れて、終点は由布院駅を考えていた。ところが日田彦山線は2017年の九州北部豪雨によって甚大な被害を受け、今もなお、添田─日田間はバス代行を余儀なくされている。当然、私が夢想していた門司港─(日田彦山線経由)─由布院間の観光列車も走ることはできないというわけだ。

3月21日の「ことこと列車」一番列車出発式で、左から、平成筑豊鉄道の河合賢一社長、水戸岡鋭治デザイナー、福山剛シェフの3人。実は予定されていたフォトセッションではなく、私のアドリブから実現したスリーショットの記念撮影となった。私としても新しい列車の出発式ほどうれしいことはない ■オリンパスOM-D E-M1 MarkII・12~100ミリF4・絞りf5.6・ISO800・AE・-0.7補正・JPEGスーパーファイン
11時32分、「ことこと列車」一番列車は直方駅をスタートした。直方はかつて石炭の集積地として筑豊随一の規模を誇った駅でもある。ほどなくランチが始まった。アジアのベストレストラン50に選ばれた「La Maison de la Nature Goh」の福山剛シェフ監修のフレンチ料理6品である。食材は沿線九つの市町村でとれたものばかり。
とりわけ感心したのは、「筑豊の誇り」と題した「黒ダイヤ 鱈と蕗の薹のフリット」だった。まさに黒いダイヤと呼ばれた石炭をイメージした料理で、石炭世代の私としては大いに気に入った。

インテリアには本物の石炭が使われている。ランチには福山剛シェフ監修「筑豊の誇り」と題した「黒ダイヤ 鱈と蕗の薹のフリット」が供される
写真・文=櫻井 寛
※アサヒカメラ2019年6月号より抜粋

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