第21回岡本太郎現代芸術賞で「敏子賞」を受賞した作品「Oの慰霊」(撮影/水津拓海)
第21回岡本太郎現代芸術賞で「敏子賞」を受賞した作品「Oの慰霊」(撮影/水津拓海)

 母の死も自らの血肉として活動し続ける弓指さんだが、誰もが表現者になれるわけではない。自殺した家族を思い出し、やり場のない思いを抱えながら自分の中に閉じこもる人もいる。そんなときに、「表現」の一つになり得るのが「人に話すこと」だという。

 語る場の一つに「遺族会」がある。自死遺族らが集まり、悲しみを話し、分かち合う場となっているだけでなく、集まることそのものがセラピー的役割を果たすこともある。

 ただ、どうしても足が向かない人もいる。

「遺族会って全然話さない人もいるし、基本的には暗い場所。僕自身も母親が死んで絶望の淵に立っていたときに『自分よりつらい人を見たい』と思って訪れたこともある。他の人の話を聞いて、『人にはこんなにもつらいことがあるのか』と知るだけで楽になった」(弓指さん)

トークショーは終始和やかだった
トークショーは終始和やかだった

 今でこそ「一番派手な死に方だった」と母の死について冗談を飛ばす末井さんも、かつてはその死を周囲に話すことができなかった。

「社会に出て、初めて母のことを話せる人が見つかったとき、すごく解放された気分になった。話すことで『なぜその人は死んだのか』『その死は悪いことじゃなかった』と思えるようになればいい」(末井さん)

 人が亡くなったとき、なぜかその死の理由について触れることはタブーだという空気がある。それを吹き飛ばすように、3人はこのトークイベントを“公開自殺会議”と命名。誰一人として自殺をダメだと言い切らない姿勢だ。その人が最後に選んだ選択を否定しないこと――。それこそが「受け入れるための一歩だ」と。

弓指さんが描いたスイスの山(撮影/水津拓海)
弓指さんが描いたスイスの山(撮影/水津拓海)

 イベント後半では来場者から2人の女性が“自殺会議”に参加。「父と兄を自死で亡くした。4人家族の半分がいなくなってしまった」「過去に自殺未遂をしたけど死ねなかった。今は生きていて良かったなって思う」とそれぞれの思いを赤裸々に明かした。

「死や自殺について後ろめたさを持たずに話せて良かった」と話すのは芸術大学に通う女性(21)だ。関西から参加し、今後は「死」を制作のコンセプトにしたいと考えているという。

 末井さんは『自殺会議』の中でこう記している。

<自殺を減らすには、自殺した人の死を悼むことだと思っています。死を悼むということは、死んでいった人のことを肯定して、その人に思いを馳せることです。(中略)その人たちがなぜ自殺したのかを考え、その原因を社会から取り除いていくことが、真の意味での自殺防止になるのではないかと思っています>(まえがきより)

『自殺会議』(著者・末井昭/朝日出版社)
『自殺会議』(著者・末井昭/朝日出版社)

 警察庁が発表した2018年の自殺者総数は2万598人。ピーク時には3万人を超えた自殺者は2010年以降、9年連続で減少している。イベントが終わりに近づいたころ、誰からともなくこんな言葉がこぼれた。

「自殺者数は年間2万人以上。その何倍もの遺族がいるんだよね」

(文/AERA dot.編集部・福井しほ)

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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