とにかく明るい安村がイギリスの人気オーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』に出演したことが話題になっている。

【写真】こちらも「裸」がウリ!今人気爆上げな芸人はこちら!

 パンツ一枚の半裸姿で颯爽と舞台に現れた安村は、かつて日本でも一世を風靡した「全裸ポーズ」のネタを披露した。途中の台詞は英語にしていたし、設定もイギリス人に理解しやすいものに変えていた。「安心してください。はいてますよ」という決め台詞は「Don’t worry. I’m wearing」と言い換えられていた。しかし、基本的なネタの構造は日本でやっているのと同じだった。

 この世界的な大舞台で、安村のネタが見事に大爆笑を起こした。審査員全員が大絶賛のコメントを残し、観客は総立ちになって惜しみない拍手を送った。誰がどう見ても文句なしのウケ具合だった。安村自身もツイッターで「人生で一番うけたよ!」と振り返っていた。

 彼のパフォーマンスを収めた動画は番組のYouTubeチャンネルで公開されていて、すでに420万回以上再生されている。この動画を見ると、多くの日本人は内なるナショナリズムをくすぐられて、どこか誇らしいような感情を抱くのではないか。WBCで活躍する大谷翔平を見るときのように「日本人がその実力を世界に見せつけた」という確かな手応えを感じるはずだ。

 なぜ多くの人がそう思えるのかというと、安村のネタが日本のお笑い界におけるマスターピースであり、その面白さの本質がそのまま外国でも通用する、ということが証明されたからだ。

 安村の全裸ポーズ芸は、その見た目から「裸芸」というカテゴリに分類されることがある。「裸になってふざける」というのは、人類の歴史上、小さい子どもから酔っぱらいまで数限りない人間がやり続けてきた超古典的なふざけ方、笑わせ方の一形式であり、そこには目新しさはない。

 つまり、裸芸と言われるものが単に「裸になってふざける」という程度のことであるのなら、そんなものはプロの芸とは言えないのである。プロの芸人が見せる裸芸が「芸」と呼ばれるのは、単なる悪ふざけにとどまらない創意工夫があり、技術があるからだ。

著者プロフィールを見る
ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

ラリー遠田の記事一覧はこちら
次のページ
全裸ポーズ芸の構造を解説すると