一方、治安が悪化したカジノの街もある。米国東部、ニュージャージー州アトランティックシティーだ。

「カジノというのは、外に向かって送客する仕組みがないと、観光客をその中にため込んでしまう性質があります。ところが、アトランティックシティーはそういう概念がなかった時代にカジノだけをドーンと建ててしまった。その結果、周辺の商業地域に観光客が行かなくなり、一部がスラム化した。つまり、カジノだけが儲かるようなビジネスモデルではダメで、統合型リゾートとして観光客を還流させる必要があります」

 日本の場合、カジノIRの整備計画をつくるのは主に自治体で、それを国に申請する仕組みになっている。なので民間事業者が勝手にカジノを建てることはできない。

「アトランティックシティーなどの失敗例を研究して、自治体の視点で地域観光や街づくりを計画し、そのなかで統合型リゾートを位置づけていく、という制度設計がなされています。さらに犯罪を抑止する警備計画を行政や事業者が立てます」

日本は「全部盛り」の制度

 ギャンブル依存症の増加についてはどうか?

「例としてよく取り上げられるのは、韓国の江原(カンウォン)ランドです。ここでお金を使い果たした人が地域に『カジノホームレス』のようなかたちで住みついてしまい、社会問題化しました。当時、韓国ではギャンブル依存症対策はほとんど行われていませんでした」

 一方、シンガポールのカジノでは居住者は日本円で約8千円の入場料(開業時)が定められ、実質的に自国民がカジノに行かないようにした。ちなみに、大阪カジノIR構想はシンガポールのホテルやカジノなどで人気の「マリーナベイ・サンズ」に近いものだという。

「シンガポールはカジノを合法化すると同時に、ギャンブル依存症対策をきちんと立てました。その結果、依存症は増えていません。つまり、カジノIRができたからといって、ギャンブル依存症が一概に増えるわけではありません。カジノの売り上げから税金を納めて、そこから発生する問題については社会的な手当てをすることが大切です。それは他の経済活動でも同じでしょう」

 18年成立のIR整備法は先行する諸外国の事例をすべて調べたうえで設計された制度だという。

「ある意味、全部盛り、みたいなかたちで、カジノにおける問題に相当強力に対処する法律になっています」

なぜ達成困難な売り上げに

 一方、厳しい規制のもとでは利益を出すのが難しくなる。

「特にカジノ産業側から批判的な声が上がったのは、日本人に対する6千円の入場料です。つまり、この金額を高いと感じる客は来なくなります」

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売り上げが“達成困難”なワケ