人は知らず知らずのうちに思考の枠にはまってしまうものだ。「探究型学習」の第一人者である矢萩邦彦さんは、著書『自分で考える力を鍛える 正解のない教室』(朝日新聞出版)の中で、自らの「思考の枠」を知るために「対義語」の例を挙げていいる。それはいったい、どんなものなのか。本から抜粋して紹介したい。

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 同じ意味の言葉を「同義語」、反対の意味の言葉を「対義語」といいます。ものごとを比べたり、選択したり、その判断を誰かに説得力を持って伝えるためには<軸>が必要です。「寒い」の対義語は「暑い」で、そのふたつの状態をつないだものが軸になります。<軸>のイメージが共有できれば格段に伝わりやすくなります。 

 一方で「お金か友情か?」みたいな問いは、あまり意味を成しません。同軸上に乗せられるようなものではないからです。「私と仕事、どっちが大事なの?」とか「芸術と地球環境と、どちらを保護すべきか?」のような問いも軸がないうえに抽象度もそろっていないので、ナンセンスです。

 お金がないと生活できないけれど、友情はなくてもなんとかなる、といわれてもモヤモヤするのは軸がイメージできず論理的に判断できないからなんです。共有しやすい軸を設定するためには、対義語が有効です。 

 では、「進化」の対義語は何でしょうか?どの世代に質問しても「退化」という回答が大半です。本当にそうでしょうか。まず、前提から確認していきたいと思います。

「進化」はもともと生物学の用語で、生物が環境に合わせて望ましい状態に変化していくことを指します。たとえば、地殻変動で深海に移り棲んだ生物が、光が届かないために目の機能を維持するとエネルギーのムダが多いので目が「退化」したとします。

 でも、それって環境に適応した結果ですから「進化」ですよね。より望ましい状態へ変化したわけです。 

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国語的対義語と生物学的対義語