松村宗亮さんにとって茶道は「自分の心と向き合うきっかけ」でもあった。現在は、「茶の湯をもっと自由に!もっと愉しく!」をコンセプトに活動している
松村宗亮さんにとって茶道は「自分の心と向き合うきっかけ」でもあった。現在は、「茶の湯をもっと自由に!もっと愉しく!」をコンセプトに活動している

 茶道というととかく堅苦しいイメージが先行し、食わず嫌いな人が多いだろう。だが、「やってみるとおもしろさがわかります」と断言する人がいた。裏千家茶道準教授で茶道教室SHUHALLY代表でもある茶道家の松村宗亮さんだ。

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 松村さんは、英国立ウェールズ大学大学院に学んだMBA(経営学修士)ホルダーで、首相官邸やフランス・パリのセーヌ川のほとり、シンガポールのアートフェア会場など、さまざまな場所でお点前を披露している異色の茶道家。最近は、YouTuberとして活躍するオリエンタルラジオの中田敦彦さんの茶道の師匠としても知られている。

 その松村さんが、初めての著書『人生を豊かにする あたらしい茶道』を出版した。本では茶道を「お茶を介したコミュニケーションツール」と定義し、「やってみるとおもしろさがわかります。型のすばらしさや長年培われた先人の知恵はもちろんのこと、その先には自由や楽しさがある」と話す。

 松村さん自身は何をきっかけに茶道の世界に足を踏み入れ、ハマっていったのか。著書ではこんなふうに語っている。

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 哲学専攻の大学生だったとき、私は哲学の本場の空気を知りたくてヨーロッパを放浪しました。現地の人は「日本人が来た!」というので、日本の文化や歴史についていろいろ尋ねてきました。しかし、答えられないことが多く、日本人なのに日本を知らない自分にショックを受けました。たくさんの国の方とかかわる多様性の社会では、自身のアイデンティティーを相手に伝える能力が必要だと痛感したのです。

 これではいけないと思い、帰国後に一念発起して書道・華道・茶道を習いはじめました。そのなかで最も惹かれたのが茶道です。ほかの2つは自分ひとりでも完結できますが、お茶には対人のコミュニケーションが必須というところが自分にとって魅力でした。

 もちろん最初のうちは、正座をすれば足が痛いし、決まりごとも全然覚えられないし、「なんだこれは?」という感じ。昔の型を守るだけというイメージだったのですが、やがてお茶が持つ非日常的・独創的なコンセプトのおもしろさが感じ取れるようになりました。古いのにあたらしい。決まっているのに自由。そんなギャップがたまらなくおもしろくて、どんどんはまっていきました。

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クラブ感の演出と茶会の共通点