GSBの仲間とシンガポールにて、MW2MHプロジェクトについてブレーンストーミング(2019年)
GSBの仲間とシンガポールにて、MW2MHプロジェクトについてブレーンストーミング(2019年)

 なぜ、スタンフォードは常にイノベーションを生み出すことができ、それが起業や社会変革につながっているのか? 書籍『未来を創造するスタンフォードのマインドセット イノベーション&社会変革の新実装』では、スタンフォード大学で学び、現在さまざまな最前線で活躍する21人が未来を語っている。著者のひとり、立岩健二氏は、スタンフォードでの学びを活かし、保守的な東京電力で社内ベンチャー、株式会社アジャイルエナジーXを立ち上げた。成功までの道程は決して平坦ではなかった。最初は社内でも反対の声が多かった日米巨大プロジェクト参画を勝ちとったが、推進中に3.11の未曾有の事態に見舞われた。多くの危機を乗り越えてきた立岩氏が、どのように社内ベンチャーを立ち上げ、成功させたのか、本書より一部を抜粋・再編して紹介する。

【MW2MHプロジェクトPoC装置などの写真や図版はこちら】

「スタンフォードで学んだ東電社員が3.11の緊急事態で発揮した『グローバル・リーダーシップ』とは」よりつづく

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■社内ベンチャーへの挑戦:MW2MHプロジェクトとアジャイルエナジーX

 福島第一原子力発電所(1F=イチエフ)事故に関する事実関係と教訓について英語で発信するため、2011年9月から4年間務めた米国駐在を終え2015年に日本に帰国。本社で1Fの廃炉を安全に進めるためのフレームワークを構築する責任者となった。世界でもっとも過酷な現場ともいわれる1Fで、安全性や環境への影響等を考慮しながら、速やかに、かつ低コストで廃炉を進めるという、きわめて難解な多元方程式を解くことが求められた。

 たとえば、燃料が溶け落ちた原子炉の状態に関する情報が不十分な状況下で、高額なロボット等の調査機器開発に関する意思決定が求められる。このようなとき、スタンフォード大学GSB(経営大学院)のData & Decisionsの授業で学んだ、decision treeおよびvalue of informationの手法が役立った。その他にも、この授業で学んだNPV(Net Present Value、正味現在価値)、IRR(Internal Rate of Return、内部収益率)、重回帰分析、AHP(Analytic Hierarchy Process、階層分析法)、等の各種意思決定手法の知見を踏まえ、1F廃炉の各種難題に対する意思決定を合理的に行うために、MCDA(Multi Criteria Decision Analysis、多基準意思決定分析)手法の応用形を考案した。

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その後、出向や英国のプロジェクト参画などを経て、次世代経営リーダー研修に応募