セグウェイ本社での試乗(2004年)
セグウェイ本社での試乗(2004年)

 当ビジネスプランは、電力会社として新たな電力需要創出に資する価値もあった(当時は、電気自動車普及の見通しはまったく立っていない状況だった)。道路交通法上、セグウェイは公道を走れないという制約があったため、経済産業省、内閣府、国土交通省等の関係官庁に働きかけた。当時の小泉首相が提唱していた構造改革特区制度を利用し、千葉県幕張エリア等の道路幅が広いエリアでの試行的適用の協議を進め、行政側も大いに乗り気であった。

 ところが肝心の東京電力側は、新規事業部門の審査で門前払いとなった。近年の電動モビリティのシェアリング事業拡大に鑑みて時代を先取りしたプランではあったが、提案した時期が15年早すぎたため、「前例がない」として、理解されなかったのである。

■社内ベンチャーへの挑戦その2:海外原子力事業

 セグウェイ・シェアリング事業の提案は却下されたが、これでくじけることなく、次はスタンフォード大のジェフリー・フェッファー教授のThe Paths to Powerという授業で学んだ、組織行動学のテクニックを繰り出すこととした。

「権力への道」というびっくりするような大胆な名称のついている本授業では、効果的なリーダーとなるためには、ともすれば汚いものとして敬遠しがちな「政治力」の効用を直視せざるを得ないことを説き、いかにして自らの信念を実現するために影響力を行使し得るポジションに自分を導いていくかについて、実例と組織行動学の理論をもとに学んだ。

 フェッファー教授は本授業の目標を「自らの意志に反して組織を離れざるを得ない状況に陥ることを防止すること」と設定し、目標達成のために次のポイントの修得を強調した。

(1)権力という概念について深く理解し、それがどのようなメカニズムで発生し行使されるのかについて分析できる能力を養う
(2)権力に関する臨床的、観察的、診断的能力を養う
(3)自分に合った「権力への道」を探求する

 ニクソン政権の大統領安全保障担当補佐官だったヘンリー・キッシンジャーのケーススタディでは、組織構造上のポジションと個人の特性との関係の重要性を学んだ。これを東京電力と筆者の関係に当てはめたとき、海外発電事業を拡大しようとしていた会社と、それに必要なスキルを有している人材という関係が成立した。

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原子力事業の海外展開はまったく想定されていなかったが…