テレビショッピングは、番組のアピールが成功したかどうかがすぐわかり、売り上げに直結する、評価がシビアに問われるビジネスだ。放送直後から受付電話が鳴り続ければ、番組での商品紹介が「よかった」と評価される一方、何も起こらなければ「悪かった」とされる。番組のつくり方の良しあしが即座に結果として表れるのだ。

 それゆえ、売り手は真剣そのもの。買う側も、乗せられることなく判断しなければ、不要なものを買わされることになる。あらゆるものの値上がりが続くなか、無駄遣いを防ぐためにも、『今さら聞けない 行動経済学の超基本』(橋本之克・著)で、消費者の心理に働くバイアスを知っておきたい。

 テレビショッピングで商品を注文する人は、実物を触って確かめることはできない。画面を通じた売り手の紹介だけで、お金を払う。いわば、番組が営業担当で、商品を紹介し、価格を見せ、購買特典などをアピールするといった、一連の商談と同じことが番組のなかで行われている。

 そこには、注文したくなる仕掛けが満載。視聴者が初めて見る商品に関心を持ち、欲しいと思い、実際に購入の手続きをするまでを短い番組のなかで行うために、視聴者の心理にさまざまな動きを生み出す行動経済学の理論が取り入れられている。代表的なのが「4つの効果」。「ハロー効果」で商品の印象を操作し、買わない損を避ける「損失回避」を発動させ、買うことが得に見える「フレーミング効果」を活用し、「アンカリング効果」で安さを印象づけるのだ。

「4つの効果」のカラクリを1つずつ見ていこう。

【損失回避】
 
 1万円損したときの悲しさと、1万円得したときのうれしさは、本来は同じはずだ。ところが研究の結果、同じ金額でも、損する悲しさは、得するうれしさより大きいことが明らかになっている。そのため人は、無意識のうちに目先の損を避けようとして長期的には損になる不合理な判断をしてしまう。この心理が「損失回避」だ。

「今なら50%割引」といった宣伝につられてしまうのは、「半額で買えるチャンスを逃すこと」を「損失」と考えて、それを避けようとするから。テレビショッピングの場合、「買えるのは今だけ」などと販売される時間が短いことを示されることが少なくない。視聴者は、買えるチャンスを逃すことが「損」に思えて、思わず買ってしまうのだ。

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購買意欲を刺激するのは安さより苦労