成功に振り回され、自分を見失った。スポーツ選手だけでなく、成功に押しつぶされた英雄は多い。本人の言葉、本音をと記録映像でつづる本作は、彼が有罪判決を受ける以前に撮影されている。映画のタイトルは、「ブンブンサーブ」と呼ばれた彼の猛スピードサーブに由来している。

 80年から以後のテニス黄金シーンを、ライバルや前世代の有名選手の映像や発言なども絡ませる、テニスファン泣かせの映像が満載だ。いやテニスファンでなくとも、見ごたえありだ。ベルリンの会見では「脱税は計画したわけではなかった」と言いつつも、素直に自分の過ちを認めるあたりに堂々たるスポーツマン精神を見た。経験や知識を武器に脱税する「パナマ文書」に名を連ねる金融界の大物や政治家とは事情が異なるのだ。

 ミュージシャン、音楽ものドキュメンタリーで光ったのはジョーン・バエズの人生を追う『Joan Baez I 1Am A Noise』だ。彼女をボブ・ディランのガールフレンドとして知る人も多いが、18歳でデビュー、天才フォーク歌手としてディランが無名の時代から人気を博した。

『Joan Baez I 1Am A Noise』

(c)Albert Baez
『Joan Baez I 1Am A Noise』 (c)Albert Baez

 本作は2019年に行った引退さよならツアーを追いつつ、過去のフッテージ(映像素材)を織り込み、彼女の歩みを追う。メキシコ系物理学者の娘としてリベラルな家庭で育った彼女が、心の病を負いつつもシンガーとして成功した過程、男性社会、白人社会で生きることの困難。

 マーティン・ルーサー・キング氏らとも友好関係にあり、反戦運動などアクティビストとしての重要な活動についても触れる。「#MeToo」などとは程遠い時代に、自分にひたすら正直に生きた彼女の生きざまは驚くべきことだ。それに加え、とにかく若いころの美貌(びぼう)がまぶしい。

 本年度の映画界に多大なる貢献をした人に授与される栄誉賞を、スティーブン・スピルバーグ監督が受賞した。授賞式に駆け付け、心温まるスピーチをしたのは、ロックバンド「U2」のボノ。そしてボノ率いるU2が1997年9月にサラエボ(ボスニア・ヘルツェゴビナの首都)で行った大々的チャリティー・コンサートの背景を物語るドキュメンタリーが『Kiss The Future』だ。

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イランやアフガニスタンの女性を支持するデモに