監督をした俳優のショーン・ペン氏 (c)Chris Pizzello/2020
監督をした俳優のショーン・ペン氏 (c)Chris Pizzello/2020

 3年ぶりに有観客で開かれたベルリン国際映画祭。コロナ・パンデミックに加えウクライナ危機など、3年間で世界は激動した。その変化をいかに人類は見つめるか、そんな問いかけをする数々の作品が上映された。中でも光っていたのが、興味深い多くのドキュメンタリー作品だ。

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 最高賞である金賞に輝いたのは仏と日本の配給会社ロングライドとの共同作品で、ニコラ・フィリベール監督の『On The Adamant』。ドキュメンタリー映画が映画祭最高賞を受賞するのは非常にまれなことだ。

『オン・ザ・アダマント』の一場面 (c)TSproduction/longride
『オン・ザ・アダマント』の一場面 (c)TSproduction/longride

 本作はパリのセーヌ川に浮かぶ船を利用した、精神障害のある人々を受け入れるデイケアセンターの日常を描く。『ぼくの好きな先生』(2001)で知られるヒューマニストの監督自身がカメラを回し、音楽や美術を楽しんだり、カフェで一緒にお茶を飲んだりといった利用者とスタッフの関係を追う。一切説明はなく、患者、看護者という線をあえて引かず、ありのままの人間関係をカメラが追う。

 人とのつながりこそが癒やしであると言わんばかりのこの施設の方針、特異性が強い共感を生む。監督は金熊賞を獲得したスピーチで、日本のロングライド、波多野氏の支えなしにここまでやってこられなかった、と感謝の意を表した。

 ウクライナ侵攻から1年超。ゼレンスキー大統領のメディアを駆使した外交には定評がある。国際映画祭の開会式には必ずメッセージを発信し、世界中に母国への支持を仰いできたが、今年のベルリン映画祭開会式もしかり。

 これまであちこちでウクライナをテーマにしたドキュメンタリーを数多く制作してきた。今回特別部門で上映されたのが米ベテラン俳優、ショーン・ペンの監督作『Superpower』だ。撮影のためにウクライナ入りしたペンが、ロシアによる侵攻のまさにその日、2月24日に大統領にインタビューするシーンがハイライトだろう。

 そもそも俳優出身の大統領という点に興味がわき、ウクライナをもっと知りたいという動機で制作したというのがこの映画。ハリウッド・スターのサイド・プロジェクト的な色彩は拭なかったが……。ただ記者会見にはウクライナや旧ソビエト連邦の東欧諸国の記者がつめかけ、多くの質問を彼に浴びせた。その時の若干不安で戸惑い気味のペン監督の様子が印象的だった。

『Superpower』の一場面。ゼレンスキー大統領(右)にインタビューするショーン・ペン

(c)2022 People’s Servant ,LLC
『Superpower』の一場面。ゼレンスキー大統領(右)にインタビューするショーン・ペン (c)2022 People’s Servant ,LLC
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ベッカー氏がベルリン入りして記者会見