そもそも岸田首相自身は5月の広島サミットで頭がいっぱいのようで、年明け早々、1月9日から14日まで、参加主要国首脳との「地固め」のためにフランス、イタリア、イギリス、カナダ、アメリカを訪問(帰国は15日)。“異次元のパワー”をもってタイトな日程をこなしたのは、ひとえに故郷に錦を飾りたいがためだろう。

 なかでも防衛費を対GDP2%への増額という“手土産”を持参しての訪米では、バイデン大統領が自らホワイトハウスの玄関で岸田首相を出迎えるという“異例の待遇”を享受。まさに「この世の春」の思いだったに違いない。

首脳会談へ向かうバイデン米大統領と岸田文雄首相=2023年1月13日午前、米ワシントンのホワイトハウス、代表撮影
首脳会談へ向かうバイデン米大統領と岸田文雄首相=2023年1月13日午前、米ワシントンのホワイトハウス、代表撮影

 しかしそんな岸田首相に対し、自民党内からも不満が出始めている。例えば菅義偉前首相は「文藝春秋」2月号に、派閥会長の座に座り続ける岸田首相に「理念や政策よりも派閥の意向を優先してしまう」と苦言を呈し、1月18日のラジオ番組でも防衛増税についての財源議論が足りなすぎたと明言。メディアはこれを「岸田降ろし」と騒ぎ始めている。

 だが、そうした声は岸田首相に響くはずがない。そもそも2021年の総裁選では「しっかりと人事をやりたい」と述べた岸田首相だ。昨年10月4日には周囲の反対を押し切って長男・翔太郎氏を首相秘書官に抜擢した。しかし翔太郎氏には山際大志郎経済再生担当相(当時)の辞任について、親しい民放の記者に漏らした“疑惑”が噴出し、“子育て”の甘さが露見した。

 党内第4派閥にすぎない43人の宏池会会長の座にしがみつくのも、そうした人事権を手放したくないからだろう。派閥のナンバー2は首相の座を狙う林芳正外相で、2021年の衆議院選で参議院から転出する際に、山口3区の河村建夫元官房長官を追い出した。

 河村氏の長男・建一氏は自民党山口県連にさえ入れてもらえず、同年の衆議院選では比例北関東ブロックの当選圏外に追いやられた。隣県の広島県に選挙区を持つ岸田首相は、それを横目で見て岸田家を守るべく、長男優遇策に出たのかもしれない。

代表質問を前に林芳正外相と話す岸田文雄首相
代表質問を前に林芳正外相と話す岸田文雄首相
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野党は低支持率にあえぎ、自民党内は人材不足