寄宿舎に文鮮明氏が訪れたこともあったという。

 旧統一教会の行事が、“本山”である韓国・清平で開かれるときは、寄宿舎の生徒全員が向かう。文鮮明氏一族の「墓参」も定期的にあった。祈祷会への遅刻、寄宿舎の門限や教えを破るなどした場合、腕立て伏せなどの罰が科せられた。

 高校3年のときには募金活動もあり、金額が「ノルマ」に達するまでずっとさせられたという。

「集めたお金は、寄宿舎の生徒たちのアメリカへの修学旅行に使われたようです。修学旅行といっても行き先は当然、旧統一教会に関連したところが中心。恵まれない人に寄付するという話だったのに……。私はこのときくらいから、旧統一教会がカネのためには人をだましても平気なところなんだ、と疑い始めました」

 Aさんはそう話す。

 高校を卒業すると、日本で大学に進学。その後、一度は祝福結婚をしたが、Aさんには信仰心もほとんどなく、結婚生活はほどなく破綻(はたん)。

「以前はずっと信者と一緒で、その生活がすべて。違う『世界』に行くと怖さがあったけど、実際は信者ではない人が幸せそうに見えました。信仰生活を強制して、勉強、仕事より教会が人生のすべてと洗脳し、マインドコントロールで将来の“エリート”を養成する。自由などなく、自分の青春は教会に奪われました」

 その後、脱会したAさん。現在、両親が寄付した金銭をめぐり、旧統一教会との係争も考えているという。

 現在、政府が成立を目指している被害者救済新法案では、高額献金などによる被害救済を目的としている。

 ただAさんは、今の法案では宗教2世など望まぬ信仰を強要された子どもたちの問題について考えられていないという。この問題を考えなければ、旧統一教会の問題は解決しないからだ。

「私が留学中、両親は『献金すれば幸せになれる』などと説得されて、親族の遺産を1億円以上も寄付しました。教会が“エリート”を養成し続ければ、永遠に同じことが続いていきます。教会の子どもは選択肢がなく、自由や人権がありません。法整備をしてくれるのはうれしいですが、今の内容では疑問もあります。新法では、教会にかかわる子どもの人権を守ることも考えてほしいです」

(AERA dot.編集部 今西憲之)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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