極楽とんぼの山本圭壱
極楽とんぼの山本圭壱

 人間を「うっかり者」と「しっかり者」の二種類に分けるとすれば、かつてはお笑い芸人は「うっかり者」に向いている職業だとされてきた。社会人としては欠点が多く、まっとうに生きることが難しいからこそ、お笑いの世界に入って一発逆転を狙うというのが、ひと昔前までの芸人志望者の典型的な考え方だった。

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 しかし、時代は移り変わり、芸人にも一般企業に勤める会社員並みのコンプライアンスが求められるようになった。コツコツ努力できる人間でなければ『M-1グランプリ』などのお笑いコンテストで勝ち上がることはできないし、売れっ子になることもできない。いつの間にか芸人は「しっかり者」の方が向いている職業になっていた。

 極楽とんぼの山本圭壱は、典型的な「うっかり者」側の人間である。彼は頭ではなく体でお笑いをやっている。計算高い立ち振舞は一切できないが、本能の赴くままに暴れたときの爆発力では他の追随を許さない。

 山本という芸人を一言で言うなら「軽薄さ」に手足が生えているような人物である。後輩芸人からも慕われる人間的魅力にあふれた人物であり、芸人として成功を収めながらも、うっかり者気質が仇となり数々のトラブルを引き起こしてきた。その中の最も大きなトラブルが原因で所属事務所から契約解除された彼は、人々の前から姿を消した。

 長い謹慎期間を経て、2016年には『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ)に出演して地上波復帰を果たした。かつてレギュラー出演していたこの番組からの呼び出しを受けて、山本は夜の野球場に姿を現した。

 彼はなぜか晴れやかな笑顔で登場してしまい、そのことを岡村隆史や加藤浩次から責められた。この期に及んで格好つけてヘラヘラしている山本のことを、加藤はどうしても許せなかった。加藤は感情を高ぶらせて山本に気迫のこもった説教をした。「当たり前じゃねえからな」という後世に残る名フレーズが飛び出したのもこのときだった。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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山本は感じる人ではなく動く人