隅田英一郎 (すみた・えいいちろう)/国立研究開発法人情報通信研究機構フェロー、一般社団法人アジア太平洋機械翻訳協会会長
隅田英一郎 (すみた・えいいちろう)/国立研究開発法人情報通信研究機構フェロー、一般社団法人アジア太平洋機械翻訳協会会長

 とても不利な条件でビジネスを強いられている日本人には、この状況を解消する(少なくとも改善する)強い動機があることになる。自動翻訳は進化したのだから、ビジネスのツールとして会社に常備して皆で使っていけばよいのである。自動翻訳によって英米人とのビジネスの非効率性を低下させ、最終的には解消できる。母語話者並みになるまで英語を頑張ろうとか、英語ができるとそれだけで素晴らしいとか、英語ができないと恥ずかしいとかの歪みも解消されて、暮らしやすい日本になるだろう。

 日本語話者だけでなく、世界の95%を占める非英語母語話者には程度の差はあるが共通の動機があることになるので世界を変えられる可能性がある。さらに、各国で固有の言語で仕事し、外国との仕事も自動翻訳に任せると、特定言語の地位だけが高いということの必然性もなくなるはずなので、結果、英語の地位も徐々に低くなっていく。各国で自国の言葉を大切にしていけばよいので、言語や文化の多様性の残る良い世界になるだろう。

○隅田英一郎 (すみた・えいいちろう)/国立研究開発法人情報通信研究機構フェロー。一般社団法人アジア太平洋機械翻訳協会会長

注1)米国連邦政府の語学能力評価基準ILR scale でSpeaking 3(General Professional Proficiency) とReading 3(General Professional Proficiency) を達成する。

注2)英語は一番難しく学習時間の観点から最長である。次に述べる理由で中国語は英語より少ない時間で、韓国語は更に少ない時間で習得可能である。中国語は、文法が日本語と違うが、日本語の漢字は中国語由来なので単語の重なりが大きい。したがって、日本人にとっては学習が楽である。韓国語は文字こそ違うが、実は文法がほぼ同じで、韓国語も漢字文化圏に属していることから、単語の重なりが大きいので、学びやすい。

注3)「英語ができない」と頻繁に聞くが、「英語力はかけた時間に比例する。単純に勉強が足りない」というまぎれもない事実があるだけだ。それ以上でも以下でもない。

注4)例えば、日本人が外国人と結婚して外国で暮らしたり、研究者が留学後にその地に骨を埋めたりすると、日本語がどんどん下手になるといった事例はよく見聞きする。また、日本人が外国語を学んでも、普段の生活ではほとんど使う必要性がないので、どんどん下手になる。これは誰もが実感することであろう。